NBAバレエ団「ドラキュラ」
2014.10.25&26 ゆうぽうとホール

2of 3
NBA BALLET CAMPANY
「Dracula」

 薄暗い舞台には紗幕が下ろされ、その向こうの幻想的な風景の中で人が襲われるイメージが演じられる。そして紗幕に「ドラキュラ」の文字がタイトルとして大きく描かれ、物語が始まるところは、さながら映画のようだ。

 第1幕、最初の場面は、弁護士ジョナサン・ハーカーがロンドンのチャリングクロス駅からトランシルヴァニアに、ドラキュラ伯爵の土地契約のために旅立つところ。今回の公演ではジョナサン役を、NBAバレエ団の芸術監督久保紘一(25日)と大森康正(26日)がダブルキャストで踊り、筆者は25日を見た。このジョナサンの妻ミーナと精神科医ヴァン・ヘルシンクが見送るところに、精神病者ハートフィールドが現れ騒動を起こす。

田澤祥子&皆川知宏
田澤祥子&泊陽平
 筆者は、かなり以前にブラム・ストーカーの『ドラキュラ』を読んではいたが、やはりクリストファー・リーなどの映画の印象が強く、このあたりの場面は原作に忠実なためか、すぐには物語に入れない。それでも、「吸血鬼が襲うと襲われた人も吸血鬼になる」という基本はわかっているので、徐々に物語に入っていく。たぶん多くの観客がそうだったろう。そして、第1幕後半のドラキュラの館でハーカーが歓待されながら、3人の女たちに誘惑される場面が、まさに「吸血鬼の女たち!」という感じで、筆者はこのあたりから物語の中に入り込んだ。
クインシー:皆川知宏/ルーシー:田澤祥子/アーサー:泊陽平
ルーシー:田澤祥子&ドラキュラ:大貫勇輔
 この『ドラキュラ』は、クラシックバレエのいわゆる「物語バレエ」ではなく、文字通り、物語をそのままバレエにしたという印象で、マシュー・ボーンの『白鳥』などと近い雰囲気だ。そしてオーソドクスに物語を追っているにも関わらず、内容がオカルト、幻想的なので、非現実の世界に迷い込める。特に、マシュー・ボーン作品でも有名なレズ・ブラザーストーンが手がけた舞台美術は、見事にゴシック的な雰囲気を作り出し、デビッド・グリルの照明デザインとともに非常にハイレベルで、日本の舞台にはないセンスとリズムがある。そのため、あたかも映画を見ているようで、まさに映画にしたら非常に映えるだろうと思えるものだ。そして、第1幕冒頭で、いきなり客電が落ちて真っ暗に。さらに第2幕冒頭でも。こうした仕掛けが、ゴシックロマンの雰囲気を高めている。
田澤祥子&大貫勇輔
 第1幕の村人たちの踊りは民族的な衣装で暗めの雰囲気のため、個人のテクニックが抜け出しにくいが、楽しめる群舞だった。そして第2幕のパーティ場面は明るく楽しい群舞で、しっかりテクニックも感じられ、バレエ的ともいえる場面だった。そのなかで、ベルボーイ役の高橋真之の跳躍がきらりと光った。
ヴァン・ヘルシング:三船元維