NBAバレエ団「ドラキュラ」
2014.10.25&26 ゆうぽうとホール

3of 3
NBA BALLET CAMPANY
「Dracula」

峰岸千晶&三船元維
ドラキュラとのパ・ド・ドゥ
 このブラックヒーロー、ドラキュラに大貫勇輔を採用したのは、非常な成功だった。身長が高く背筋の伸びた姿、そして堂々とした態度、その長身によるダイナミックな動き、ヒーローの持つ雰囲気。そして深紅の衣装によって「悪」を象徴する存在感。従って、ダンスも大貫とのデュオ、パ・ド・ドゥが見せ場の一つとなる。
レンフィールド:古澤良
 まず、中心にあるのは、ヒロインであるジョナサンの妻ミーナ、峰岸千晶とのパ・ド・ドゥである。峰岸はNBAバレエで見事にプリマとしての位置を確立した。安定感がありかつ強い筋肉のしっかりとした踊り、そして同時に繊細な演技もこなす。踊り以外の演技性も、この大貫とのパ・ド・ドゥではしっかりと表れており、ドラキュラの胸に口を付けて血を吸うシーンは印象的だった。峰岸は久保紘一が20年プリンシパルとして在籍したコロラドバレエ団に1年間研修の経験がある。

 そして、ミーナの友人ルーシーとドラキュラとのパ・ド・ドゥ。田澤祥子の踊りは女性らしさが強調され、まさにドラキュラに襲われる女性の典型を描いていた。特に二階で血を吸われる場面は、手すりから上向きにこちらに体を投げ出し、吸血鬼に襲われる女性の象徴的なイメージを演じていた。そして、自らも吸血鬼となっていく姿も印象的だ。

ミーナ:峰岸千晶&ドラキュラ:大貫勇輔
 さらに、弁護士ジョナサンのドラキュラとのやりとり、そのパ・ド・ドゥも見応えがあった。大貫勇輔と久保紘一による男性同士のパ・ド・ドゥだが、襲う、襲われるという構造が明確で演技も伝わってきた。のみならず、男同士という捩れた感覚が感じられ、興味深かった。

 ミーナが連れ去られて、他の犠牲者たちが吸血鬼(ゾンビ)となって集まるシーンは、ゾンビ映画やマイケル・ジャクソン『スリラー』を思わせるインパクト。いわゆるコンテンポラリーの脱構築的テクニックでもなく、バレエを基本としながら、床に横たわったり、這ったりもありという、物語に合ったエンターテイメントな動きだ。その中で、強い爆発音に観客みんなが驚く。そして、ジョナサンやヘルシングたちが、ドラキュラの胸に杭を打ち込んで終焉。知っていても、印象的な場面だった。

 終演後の交流会で、ダンサーたちは一様にこの新しい経験に興奮し、そして出演したことを光栄に感じているのが伝わってきた。
ミーナ:峰岸千晶&ドラキュラ:大貫勇輔
大森康正/峰岸千晶/大貫勇輔
バレエ・エンターテイメント
 日本では、かつてはさまざまな創作バレエの実験も行ってきたが、現在、定着しているものは少ない。このバレエは、クラシックのテクニックを背景に、吸血鬼というテーマ、その幻想性、怪奇性を描き出すものだ。ハイレベルな装置や照明と音楽に支えられ、大胆な振付と演出で見せる新たなバレエ・エンターテイメントといえる。これが、本国でロッキーホラーショーのように人気が出たというのも肯ける。日本でブームになるかどうかはわからないが、バレエやダンスを身近に感じて楽しめる作品として、もっと多くの人に見られるべき舞台だといえる。
大森康正/泊陽平/大貫勇輔/峰岸千晶/三船元維
 マイケル・ピンクの他のレパートリー作品も見たいが、まずは、この作品を日本国内各地で再演して、バレエ・エンターテイメントを見る風土をつくっていくことが必要かもしれない。そして、大貫勇輔は、その持前のヒーロー性からも、このブラックヒーロー、ドラキュラに相応しい。

 今回、『ドラキュラ』でNBAバレエ団は、日本のバレエに新たな1ページを刻んだ。これをどう展開するかは、芸術監督久保紘一を中心とした、NBAバレエ団の意欲と、それを支える観客にかかっている。

2014.10.25 ゆうぽうとホール所見

舞踊批評家 志賀信夫

STAFF

原作:ブラム・ストーカー    
振付:マイケル・ピンク
振付助手:ナディア・トンプソン
作曲:フィリップ・フィーニー
舞台装置・衣裳デザイン:レズ・ブラザーストーン
照明デザイン:デビッド・グリル

演出:久保?一 Koichi Kubo
バレエミストレス:野田 美礼
舞台監督:千葉 翔太郎 
照明:有限会社 舞台照明劇光社
音響:相馬 保之

主催:NPO法人  NBAバレエ団