若手育成のための新シリーズ公演 
谷桃子バレエ団
「ジゼル」全幕

2014.8.15&16 ゆうぽうとホール

2of 2
Tani Momoko
Ballet「GISELLE」
New Passion Wave 2

ジゼル:植田綾乃
バチルド姫:林 麻衣子 アルブレヒト:今井智也
日原永美子 / 植田綾乃
 谷バレエ団では、上の点でいうと、ジゼルのソロとペザント(男女2人)の踊りを収穫祭の場におき、アルブレヒトのソロは置かず、また彼はジゼルの最期は見届けずにその場を去っていくのです。これはもっとも伝統的に行われているもので、最近では、ジゼルやペザントの踊りをクーランドやバチルドなど貴族に献じたり、アルブレヒトのソロを加える演出もでてきました。また、ペザントの踊りも3人、4人、6人などまちまちです。
 もうひとつ、個人的な好みですが、最初の2人の出会いの形。彼がきたと心ときめかせて家から出てきたジゼル、いろいろ探すが見つからない。がっかりして家に戻ろうとした時に出会うのですが、振り向いた時に目の前に彼がいる、と後退りした時に背中がだれかに触れる、すぐにそれが彼と分かる、の2つの形。正面か、背中か、谷桃子バレエ団は背中派、私もこれに賛成、ぐっと来るのです。
日原永美子 / 須藤 悠 / 今井智也
 今回の舞台の出来栄えを見てみましょう。まず、踊りはもちろんのこと、芝居の部分もよく工夫されています。

 第2幕のマイムもしっかり(というのは、最近、「白鳥の湖」の第2幕やこの作品の第2幕などバレエ・ブランの場ではマイムをいい加減にしてしまう演出が往々にしてみられるからです)。全体によく訓練されていて、とくに第1幕の芝居、第2幕の踊り、それぞれに見応えのある舞台でした。美術、装置、照明などもよく考えられています。時間の経過も、照明であるていど示されていました。

ウィルフリード:須藤 悠
ミルタ:松平紫月
ドゥ・ウィリー:井上 栞、江原明莉
 ただ、欲をいうと、これは演出の問題かもしれませんが、踊りに入る時にその踊りの意味を、出演者がしっかり示していない場合があります。すべての踊りには意味があります。とくにこれはロマンティックバレエ、形式よりも実際の意味を大切にしてほしいと思いました。それはマイムにも言えます。同じ意味でも状況が変われば、気持ちに違いがあれば、形は変わります。

例をひとつあげると、【お願いします】、両手を結んで前にだすのですが、その時の気持でニュアンスは随分違います。もうひとつ、他人が踊ったり、話をしたり、気持ちを強く表現している時の受けのマイム、たとえば村人たち、画一的でなく状況に応じて、いろいろな動きがあってもよいでしょう。

今井智也&植田綾乃
 主役について少し感想を。ジゼルの佐藤麻利香は、動きも、演技の点でもなかなかしっかり、見応えがありました。あえていえば、もう少し感情の動きを、身体全体で柔軟に、明快に表現してもらうとさらに説得力が増すと思いました。

アルブレヒトの檜山和久。スタイルはよいし、技術も高い、この面では十分合格、人気も出るでしょう。ただ、表現が弱い。もっとしっかり感情を抱いて、それを的確に身体の動きに変える訓練をしてほしいと思います。例えば、第1幕の最後、ジゼルが苦しんでいる時、自分ももっともっと本気で苦しみ、悔やんでほしい。そしてそれを表現してほしいのです。

 ヒラリオンの須藤悠、与えられた動きはきちんとこなしています。しかし、同じことですが、もっと自然に発する自由な演技を。たしかに音楽がありますから、勝手に芝居をするわけにはいきません。そこに心と音楽性の調和が必要になるのです。

 陳鳳景(クーランド大公)、林麻衣子(バチルド)、日原永美子(母親ベルタ)らの演技陣はさすがにベテラン、しっかりこなしていました。

 ペザントの新人、齊藤耀はやや緊張が見え、十分に力が発揮できなかったようです。素質はあるのですから将来に期待。相手役の山科諒馬は大きな動き、十分に楽しめました。

ヒラリオン:安村圭太
 第2幕。ミルタ、江原明莉は大柄、よく演じていました。ただ、これも演出の問題でしょうが、冒頭のジゼルがウィリーに変わる儀式、その準備が丁寧にし過ぎたというか、演奏(河合尚市指揮、ニューパッションウェーブオーケストラ…全体としては好演)も含めて、ミルタ、ドゥ・ウィリー、群舞のところで場の雰囲気が高まってしまって、【いざジゼルの出現】の時に逆に盛り上がりに欠けたように感じられました。それだけミルタ、ウィリーたちがよくやったともいえるのですが、墓の中からジゼルが現れるのを儀式のハイライトとするように進める計算がほしいところでした。
植田綾乃 今井智也
松平紫月
 基本的な作品解釈、演出はとてもしっかりしていると思います。この公演の目的はあるていど実現しました。これから、他の作品も含めて、さらに命を与えるための、舞台化の段階でのより綿密な演出、指導があれば、新人たちもさらにレベルアップし、舞台空間の密度も、ドラマとしての感動も大きくなるのではないでしょうか。

8月16日ゆうぽうとホール所見

舞踊批評家 うらわまこと

STAFF
総監督/谷 桃子
企画・制作/赤城 圭
芸術監督/齊藤 拓
原振付/ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー、マリウス・プティパ
音楽/アドルフ・アダン
バレエミストレス/高部尚子、上島里江
バレエマスター/中武啓吾
舞台美術/橋本 潔
衣裳美術/緒方規矩子
照明/森島都絵(インプレッション)
舞台監督/山田亜由美
音響/五味瑞樹(アートスタジオY’s)

指揮/河合尚市
演奏/ニューパッションウェーブオーケストラ

大道具・小道具/ユニ・ワークショップ
衣裳/後藤寿子
かつら/奥松かつら
マネジメント/谷桃子バレエ団制作部