谷桃子バレエ団創立60周年記念公演6
「レ・ミゼラブル」

2010.10.16 ゆうぽうとホール

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Tani Momoko Ballet
「Les Miserables」

ジャヴェール警部:三木雄馬
ジャン・バルジャン:齊藤拓&三木雄馬

谷桃子バレエ団「レ・ミゼラブル」

伊地知優子

 望月則彦振付「レ・ミゼラブル」は2003年に谷桃子バレエ団で初演されて以来7年振りの再演です。

 物語バレエの作家がなかなか出てこない日本にあって、物語に長年取り組んできた作家の蓄積がようやく結果を出し始めた2000年代に入ったあたりから、次々と快作をものにしてきた望月の、これは代表作の一つになりそうだという期待を持った初演でした。

 7年を経た今、当然、作家の腕もバレエ団の水準も上がっていますから(日本のバレエダンサーの水準は総体的にどんどん向上しています)、初演を上回る出来栄えでなければなりません
 振付けは初演とほぼ同じで、少し整理してすっきりとした印象ですが、むしろダンサーに人材を得たことが大きな魅力となりました。物語の芯となる主役の男性二人、ジャン・ヴァルジャン(齊藤拓)とジャヴェール警部(三木雄馬)の力量が、互いの背負った人生の歴史をよく暗示して異なる立場と性格を際立たせました。
ファンティーヌ:伊藤範子&少女時のコゼット:伊藤さよ子
 ジャンの、窃盗犯から身をおこし、人望を集めて市長にまでなった「人物」の重みが、齊藤の格調高いクラシックバレエの技法に良く表現され、かたやずば抜けた美しい跳躍と鋭い動きで「出来る男」の高い能力を表現した三木ジャヴェールのかっこ良さは、当時の庶民から見た警察権力=エリートという社会階層の表現でもあり、見事な当たり役です。
ジャン・バルジャン:齊藤拓
 女性陣ではコゼット(高部尚子)の若々しさと賢さ、その母親ファンティーヌ(伊藤範子)の女らしいふくよかな魅力は、さすがプリマを張ってきた二人だけに、舞台に奥行きを与えています。

 出番の長い場面が多い伊藤ファンティーヌは、まともな若い女、娘を他人に預けて身を売る女、絶望の淵に沈む女、と状況の変化をよく踊り分けながら、それなりの女の魅力を打ち出していたのが印象に残ります。

 高部コゼットは苦労に耐える健気な娘などは得意なはずですから、期待したのですが、意外に見せ場が少なく、じっくり本領を発揮する場面がもう少し欲しかったように思います。

 またコゼットをこき使う強欲なテナルディエ(敖強)と妻(朝枝めぐみ)の庶民の生活感に溢れた巧みな踊りは物語の滑り出しから観客を引き込み、終始臨場感を盛り上げていました。こういう技巧、表現ともに優れた即戦力のヴェテランが何人もいるバレエ団でこそ可能な物語バレエの創作です。

テナルディエ夫妻:敖強&朝枝めぐみ
コゼット:高部尚子