NBAバレエ団「死と乙女」
2016.5.27&29 北とぴあさくらホール

2of 2
NBA Ballet Campany
「Dert Tod und das Madchen」

 「グリーン・マン」と名付けられた男性のソロが中心にあり、27日は高橋真之がこれを見事にこなして魅力的だった。さらに、「レッド」は竹田仁美と大森康正のデュオで、これもしっかり見ごたえがあった。「ブラウン」はちょっと黒に見える佐々木美緒と三船元維のデュオで、ベージュのコールドの群舞とよく絡んでいた。「メンズダンス」は男性6人でテクニックも見せたが、赤い半パンツという衣装はちょっと体が貧弱に見えるように思った。おそらくこれはマッチョ体形向きだ。いずれにせよ、単なるアイリッシュダンスではないこの混淆は、実に魅力的かつ意義のある振付といえるだろう。
Brown/佐々木美緒、三船元維
 途中の音楽を林英哲グループの4人が、それぞれ異なる太鼓やパーカッションで演じて、この独特なリズムに見事に対応していた。それも生演奏のエネルギーを感じさせて、強い力と疾走感のあるダンスと合わせて魅力的だった。
Green Man/高橋真之

Act 03 死と乙女
Dert Tod und das Madchen

振付:舩木 城
作曲:新垣 隆

ピアノ:新垣 隆
「死と乙女」とは

 本題の第三部「死と乙女」はウィーンの画家エゴン・シーレの作品『死と乙女』(1915年)がモチーフになっている。シーレは『接吻』などの金色の作品で知られるグスタフ・クリムトの愛弟子。クリムトから譲られたモデルで、最愛の恋人との別れを描いたこの作品は、世紀末ウィーンの表現主義作品の名作である。

太鼓:林 英哲
 また、「死と乙女」は、欧州では病いに倒れた女性が清いまま亡くなっていくことを意味している。このテーマはよく知られており、シューベルトには歌曲「死の乙女」と弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」があり、病いに伏す乙女と死神の対話を描いた詩に基づいている。

 NBAバレエ団では当初、芸術監督の久保紘一と振付家の舩木城(ふなき・じょう)が林英哲に依頼した段階では、音楽はストラビンスキーの『春の祭典』だった。しかし、『春の祭典』は編曲や改変が禁じられている。また、久保がかねてから日本オリジナルの作品という希望を抱いていたことから、林が以前に作品を演奏したこともある作曲家、新垣隆を候補としてあげ、依頼したということである。

 新垣は佐村河内守のゴーストライターとして世間に知られたが、元々、現代音楽の作曲家、クラシックのピアニストとして音楽界では知られた人物であった。近年、広告やバラエティにも登場しているが、ある番組でピアノを弾いたときにも、その技術は圧倒的に高かった。

 今回、この作品は林英哲、新垣隆、振付の舩木城、芸術監督かつ自ら踊る久保紘一という4人のコラボレーションだが、音楽に焦点が強く当てられていた。というのは、通常、バレエなどの舞台では、新作音楽でもオーケストラピットだったり、舞台に上がっても端で演奏するのが常だが、今回は舞台の上に音楽家2人を配してスポットをしっかり当てた。下手(左)上には和太鼓と林英哲、上手(右)下には新垣隆とグランドピアノが照明で浮かび上がる。そして、その下でダンサーたちが踊るという構造である。それはなんとも独特の幻想的な風景といってもいいものだった。

久保紘一&岡田亜弓
エネルギーとスピード感

踊りの冒頭の部分は女性たちが横たわり、死を強く感じさせるイメージで静かに始まる。それが次第に高まっていき、群舞が次々と展開していく。音楽は林と新垣の演奏のバランスもよく、次々と繰り出されるリフレインやリズムは魅力的だ。全体として、ストラヴィンスキーや『展覧会の絵』のムソルグスキーのような、変拍子のリズムが繰り返される速いテンポのものが多く、『春の祭典』的なイメージも見受けられた。
 また、ローリングストーンズの『黒く塗れ』のテーマから展開していく部分や、静かなワルツにはショパンが紛れ込むなど、遊びも楽しい。そのあとのコミカルなワルツやスペイン的な要素も感じさせるリフレインなど、多様な展開だった。

 踊りとしては、群舞のエネルギーはしっかり感じられた。ただ、個々のソロやデュオなどが、リズムに流されて立ってこない。キャストも久保紘一はわかったが、あとはほとんど個人が感じられないのは残念だった。舩木城による振りにはかなり工夫がみられて、面白いと思う部分も多かった。ただ、すぐに次の場面に流れてしまうので、見る側も落ち着かない。まず、景、場面が多すぎるのだ。音楽の展開とスピード感に合わせたのだろうが、スピード感を重視するあまり、重みや厚みが感じられなかった。
浅井杏里、大森康正、岡田亜弓、 清水勇志レイ、鈴木恵里奈
関口祐美、高橋真之、竹内碧、竹田仁美、土田明日香、 三船元維
峰岸千晶、森田維央、柳澤綾乃、 米倉佑飛
「死と乙女」のゆくえ

 ダンサーがじっくり立ち止まったり、考えたりという感情を示す部分も少なく、短いため、「死」が立ってこない。立ち止まってじっくり、「死」を見つめるという印象がないのだ。個の場面が見えないまま、群舞と強いリズムに舞台が押し流されたという印象である。つまり、表現主義の内面を見つめるエゴン・シーレの『死と乙女』とは、かなり離れてしまった作品だということができる。

 おそらく、景を減らして、静かな場面などをしっとりじっくりと踊るだけで、だいぶ印象が変わるだろう。そして、そういう部分がしっかり浮かび上がれば、激しいリフレインや動きの部分も際立ってくるはずだ。また、作品として立たせるためには、知っているメロディがコラージュされることは、プラスには働かない。観客に親しみをもってもらうためのサービス精神はわかるが、この作品を自立させるためには、入れないほうがいいのではないだろうか。

 優れた才能が4人集まったこと、この作品のコンセプトと音楽、ダンスともに質は高いのだから、少し整理し再構成すれば、もっと魅力的なレパートリーになることは間違いない。作曲、振付を委嘱した作品なのだから、ぜひとも再演してさらに優れたものにしてほしい。少々辛辣だが、せっかくのいい作品を、ぜひとも生かしてほしいと望んでいる。

2016.5.27 北とぴあさくらホール所見

舞踊批評家 しが のぶお

STAFF
芸術監督・演出: 久保紘一
振付: 舩木 城、宮内浩之
作曲:新垣 隆

バレエミストレス:野田美礼
ゲストバレエマスター:鈴木正彦
バレエマスター:西 優一、榎本晴夫、久保栄治

舞台監督:千葉翔太郎、塩谷憲彦(楽器担当)
照明プラン:(有)舞台照明劇光社
音響プラン・音響:山本高広
衣裳デザイン・製作:仲村祐妃子