バレエ・リュス100周年記念
「NEO BALLET × ニジンスキー」
〜千夜一夜 夢のプリンシパル・ガラ〜

2009.9.21 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

2of 2
NEO BALLET

「ナルシス」
振付・出演/松崎えり、青木尚哉
「ジゼル 第二幕よりパ・ド・ドゥ」
振付/ジャン・コラーリ、ジュール・ベロー
田中ルリ、佐々木大
 この公演ではこのバレエ団の作品を上演するだけではなく名作をコンテンポラリーダンスに翻案した作品も上演された。「春の祭典 ニジンスキーへのオマージュ」と題された作品では伊藤範子と西島を軸に力強い現代作品が展開される。伊藤が輪廻を重ねていく心象風景の中に西島が現われ、壮大な幻想世界の中でストーリーが展開していくというバレエ作品である。西島や青木尚哉、松崎えり、そして遠藤康之がそれぞれ振付、タップダンサーも加わるシーンも作中に織り込まれているという作品である。その力強い作風と様式には21世紀の現代バレエからの影響を色濃く見ることができる。

さらに「牧神の午後」(西島振付)では中村誠がバレエの長い伝統との相克の中で現代的な作風を模索し煩悶する1ダンサーの肉体と自意識の姿を描くことで、現代日本の舞踊家の目からみた風景とバレエ史の革新の姿を重ねてみせるなど、現代とバレエリュス、そしてバレエと現代の接点を模索する試みが行われた。

「春の祭典 ニジンスキーへのオマージュ」
振付/西島千博、青木尚哉、松崎えり、遠藤康行
 バレエ・リュスは日本社会にも幅の広いジャンルに大きな影響を与えた。ハイカルチャーのみならず漫画の手塚治虫の名作「火の鳥」にもそれをみいだすことができる。音楽・舞踊・オペラと幅の広いジャンルを日本に紹介した批評家の大田黒元雄は実際にロンドンでバレエ・リュスやニジンスキーを見た経験から「露西亜舞踊」を1914年に記した。この本に憧れた若者は多く、その中には若き日の思想家の林達夫やあの小牧正英もいる。小牧は若き日にこの本と出会いバレエを志し大陸へ渡り、上海バレエリュスで活躍をし戦後帰国する。時代の先端を切っていたこのバレエ団は舞踊家のみならず多くのジャンルの芸術家の憧れの的であった。今回は上演されなかったが「クァドロ・フラメンコ」では小島章司が指摘をするようにに民族舞踊のフラメンコを芸術化してみせるなどその先駆的で多角的な存在は現代の舞踊界でも取り上げ紹介されることが少なくない。
「ディアギレフ的」という言葉を小牧や東勇作など日本バレエの近代のパイオニアたちから習った今日の大家たちが語る時、私は独特なニュアンスを感じるときがある。バレエ・リュスやディアギレフ自身は現代舞踊の起源のイサドラ・ダンカンによる近代舞踊革命と同時代の欧米社会で活躍をした。彼らは様々な舞踊や芸術の発展と同時代の中でバレエの発展と可能性を夢見、様々な挑戦を成し遂げてきた。その薫陶を受けている現代の大家たちは現代の若者たちのように“コンテンポラリーダンス”や“モダンダンス”、“バレエ”といった様々な芸術やダンスを言葉の区分から切り分けてしまうのではなく広く包括的にバレエを考え、その発展を見守ろうとしている。現代舞踊もごく自然に受け止め今年他界をしたピナ・バウシュの魅力にも敏感に反応するそんな彼らの姿勢のルーツをこのバレエ・リュスに感じとることができる。
伊藤範子
秋元康臣、伊藤範子、上山千奈、児玉麗奈、柴田有紀、邵 智羽、中島 周、中村 誠、吉本真由美、愛智伸江、淺越葉菜、五十嵐耕司、猪俣陽子、大溝ちあき、小倉千種、小野真理子、北川優佑、久保 愛、後藤いずみ、佐々木宏子、佐藤祐基、上瀧達也、杉 怜、鈴木美波、染谷野委、高瀬瑶子、高橋由佳、竹田 純、津田康子、中屋利萌子、長澤風海、土方一生、藤林佑梨、村上華菜、山辺美紗子、Natsuo、西島千博
G・V・ローシーが来日し日本の洋舞の第一世代にバレエを教えた帝国劇場はこのバレエ団と同じぐらいに活動を開始している。そんな日本社会もそろそろ洋舞100年を近い将来に迎えようとしている。新世紀のこの国の若者たちの間から新しいバレエとバレエ文化が芽生えてくることを夢見てやまない。

2009.9.21 彩の国さいたま芸術劇場大ホール マチネ所見

舞踊批評家 よしだゆきひこ

西島千博