(社)日本バレエ協会 第30回「全国合同バレエの夕べ」

2006.8.11&13 新国立劇場オペラ劇場


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Japan Ballet Association
Joint Ballet Soiree Gala


関東支部「ピアノ・コンチェルト 〜扉〜」
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:大岩静江
バレエ・ミストレス:上島里江
D.S.:とてもドラマチックなプロコフィエフの曲でした。この曲を選ばれたのは?
大岩静江さん:娘がジュリアード音楽院の出演作品にこの曲が使われてて、とても感動しました。この曲でいつか作品を作りたいと思い続けていました。初演は2000年(?)の埼玉県ニューイヤーコンサートだったのですが、今回は中島敦さんの「木乃伊」にヒントを得て作り上げました。死霊・生霊の間をさまよう“ミイラの一夜の夢”だと思ってみていただければ......。

『木乃伊(ミイラ)』中島敦 〔『中島敦全集』1 ちくま文庫 1993〕
ジュモール・バーンズ
D.S.:輪廻転生 ですね。観客には何を感じて欲しいですか?
_お答えするのがちょっと難しいのですが、死を見つめることによって生が見えてくる。今生きている自分をより愛することができる、そんなことを感じてもらえれば......。

D.S.:それは大岩さんご自身が普段感じていらっしゃるのですか?
_そうです。(ちょっと考え込んで)「この作品も完成しないんじゃないか
という時期があったのですが、家族の励ましもあって「この高い壁を乗り越えてみたい」と考え直しました。その期はとても苦しかったのですが自分自身の生と死を見つめる時間になったと思います。
D.S.:主演の樋口みのりさんはバレファンならご存じですが、ジュモール・バーンズさんもすばらしいダンサーですね。

_彼に出会えてラッキーでした。ニューヨークでフリーで活躍中のダンサーですが振付もします。
D.S.:あ、なるほど。ラストの(墓への?)階段を上るシーンではその演技に圧倒されました。コールドの方もその役を楽しんでいるように感じました。
ジュモール・バーンズ& 樋口みのり
それは嬉しいですね。テクニック的にも肉体的にも現在のダンサーは恵まれていると思うのですが、そうではない精神的なものをその時代時代にどう伝えるか。ゲネ終了後に「すべてのダンサーは踊り続けなければいけない。止まっている“静”の中にも“動”を感じさせなければならない。」と話しました。

D.S.:まるでカメラマンが言われているような気がします。(笑)

_バレリーナを育てる以前に人間を育てないといけません。魂のない形だけのお人形さんはいりません。「(ダンサー以前に)人間であれ!」それが私のバレエ哲学です。
樋口みのり
ジャーミー・ネイスミス/岸田隆輔
ジュモール・バーンズ

甲信越支部「オーロラの結婚」
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
原振付:マリウス・プティパ
改定振付・構成:大塚礼子
バレエ・ミストレス:深沢由美/成澤千賀子

ダンス・スクエア:「オーロラ姫の結婚」は甲信越支部としては初めての演目と伺いました。今回は山梨県が中心メンバーなのですが、大塚さんの地元ですね。

大塚礼子さん:そうです。甲信越支部と一口で言ってもかなり広いものですから企画段階から皆さんのお力を頂きました。
やさしさの精:秋山絵里
元気の精:伏見真人
おおらかの精:石川香奈
のんきの精:大木愛恵
勇気の精:池田藍彩
D.S.:集まって練習することが難しかったとお察ししますが、まずは出演メンバーを決めなければいけませんね
_オーデションが去年の暮れも迫った頃だったのですが 甲信越支部の先生方が全員集まってくださって......。これには感激しました。

D.S.:つまり今回は山梨が中心だけれど “役員全員のお墨付き”を得たということでしょうか。
_いえ、もっと大きなもの、精神的なバックアップを頂いた気がしました。

フロリナ王女:相原 舞&ブルーバード:倉谷武史
D.S.:そこで選ばれたのが?
_オーロラ の寺田麻里さん が若尾多香先生、リラの精:長谷川由貴さんとフロリナ王女:相原 舞さんは深沢由美先生の生徒さんなど将来を期待される方達です。

D.S.:振付の際、心がけたことは?
_大塚礼子さん:山梨県の若手ダンサーが新国立劇場オペラ劇場でオーケストラの生演奏で踊ることができることを幸せに思います。
(ここで大きく一呼吸して)ダンス!、踊ることを中心に振り付けました。全員がこの舞台を経験し大きく成長してくれるに違いありません。
オーロラ姫:寺田麻里&デジレ王子:今井智也
D.S.:苦労されたところは?
_ソリストはソロの部分だけ、アンサンブルはアンサンブルだけを踊るのではなく、全員が参加して一つの作品を作り上げることを目指しました。(プティパ の原振付けでは)誕生のお祝いに駆けつけて来たはずの妖精のヴァリーエションをこの最終幕に持ってきたり、花のワルツを結婚式のフィナーレのコーダにするなど、(全幕の構成)枠を外した構成になっています。

D.S.:バレエファンの耳になじんだ曲を集めた“眠れる森の美女のハイライト版”ですね。違和感は全んど感じませんでした。それがすなわちお客様に一番見ていただきたい“ダンス”ですね。

中部支部「BEAT TIME」
音楽:民族音楽
振付:近江貞実
バレエ・ミストレス:望月あや子


D.S.:近江貞実さんといえば東京バレエ団出身のクラシックダンサーのイメージが強かったのですが、島崎 徹公演「HUMAN GATE」(2002.3.6&7 青山劇場)でそれを覆されました。

D.S.:プログラムには【3拍子から7拍子まで5段階の拍子の異なる曲を組み合わせて、リズムの違いが動きにどのように影響するか視覚化】とありました。冒頭からラストまで宗教的な陶酔感を感じましたが、強烈な太鼓のリズムによるものでしょうか?

近江貞実さん:タムタムなども使っています。現実と距離を置くことを念頭にアブストラクトな感覚で振り付けました。
三木雄馬&望月あや子
D.S.:照明が暗い上に抽象的なダンスに戸惑いました。(笑)
_市岡 欣樹(よしき)さんの照明プランです。初演は3年ほど前なのですが、やっと私の求めていた世界に近づきつつあります。

D.S.:(たまたまそばにいらした市岡さんに)どんなイメージで作られましたか?
市岡 欣樹さん:ダンスだけ、音楽だけ、照明だけのどれが特別視することもなく全体のハーモニーを大事にしています。
D.S.:ところで振付は初演時からそのままですか?
_曲も増えましたしだいぶ変わりました。初演時は女性だけのヴァージョンで、もちろんパ・ド・ドウもありませんでした。

D.S.:市岡 さんにお尋ねします。“振付家:近江貞実”の世界とは?
市岡さん:世界と言うよりもダンサーに負けない根気でしょうね。ダンサーが疲れ果てていても発想を現実に持っていく 根気が彼にはあります。

近江さん:コンテンポラリー作品を作る上で一番重要なことだと考えています。ある部分を任せられる才能あるダンサーも存在しますが“振付家の責任として作品のイメージを観客に伝えうるか”に妥協するわけにはいきません。私自身がダンサーとして踊ってきて振付家に中途半端な妥協をされたくなかったですから。
D.S.:現役ダンサーだからできるリハ中の出演者への叱咤激励だと感じましたが、ヤクルトの古田のようなプレイングマネージャーに近い存在ですか?

近江さん:まだまだ現役(ダンサー)です。(爆)