井上バレエ団上演25周年記念 12月公演
「くるみ割人形」
2009.12.12 文京シビック大ホール

2of 2
Inoue Ballet
「THE NUTCRACKER」

金平糖の精:西川知佳子
王子:秋元康臣
2幕、いよいよ 金平糖の精の登場です。昼の部の田中りなさんの撮影ポジションは下手花道から、夜の部の西川知佳子さんを2階上手から狙いました。同じ表現を違う角度から見てみたかったのです。ところが不思議なことに華麗で鮮やかな印象がほとんど変わりません。ファンタジーな幕開きに始まり、物語のスムーズな展開が心地よくグラン・パ・ド・ドウまで一気に進んだ感覚です。このバレエ団の創立者である井上博文さんは独特の美意識を持った人で、安っぽいものを極度に嫌ったそうです。ピーター・ファーマー の美術・衣裳はもちろんですが 芸術総監督の井上博文さんの構成力が初演時から完成の域に達していたということなのでしょうか。驚くばかりです。
スペイン:松田多恵子、加藤健一
スペイン:大島夏希、荒井成也
アラビア:綱島郁子
アラビア:小西 優
中国:中武啓吾&越智ふじの
中国:中武啓吾&佐藤悠佳
 批評家の山野博大さんに伺った話です。ある公演で1幕が終わり休憩に入ったときに年配のご婦人に不安げに尋ねられたそうです。「◯ ◯さんが出演するというので見に来たのですが今日は出ないんですか?」“主演:◯ ◯”とあるのにいつまで待っても出てこず心配になったのです。確かに「白鳥の湖」や「眠りの森の美女」などと違って、金平糖は最後の最後に踊るだけです。バレエを初めて見る方が不安になるのも無理はありません。山野さんは「これから出るんです。楽しみにしてください」と答えられたそうですが、終演後にその方が満足して帰られたかはさだかではありません。

金平糖の精の田中りなさん・西川知佳子さんも決してこれが到達点ではありません。初めてバレエを見た方が「バレエってスゴイ。また観に来なきゃ」と思わせなければならないのです。長いバレエ人生がここから始まるのです

トレパック:桑原智昭&吉本奈緒子
トレパック:吉本奈緒子、古谷幸子、長谷川恵子
   桑原智昭、加藤健一、近藤徹志
あし笛の踊り:速水樹里、日高優子、阿部真央
ギゴーニュおばさん:馬渕唯史
花のワルツ:宮嵜万央里、中尾充宏
今回、ダンススクエアが注目したのは 王子役の秋元康臣さんでした。お名前に聞き覚えのある方も多いと思いますが、1998年と1999年のフリッツ役でした。モスクワボリショイ舞踊アカデミーを卒業し帰国、NBAバレエ団で活躍中なのですが、“故郷に錦を飾る”ようで出演してくれるだけでなんだか嬉しくなってしまいます。都民「眠れる森の美女」の青い鳥役でも注目していましたが、ヴァリエーションで思わず「キレイ!」と叫んでしまいました。
宮嵜万央里
王子:秋元康臣&金平糖の精:田中りな
王子:遅沢佑介&金平糖の精:西川知佳子
遅沢佑介さんは2007年都民「ジゼル」で、名プリマ下村由理恵さんと堂々たる演技で渡り合いました。その後Kバレエ団に入団し活躍中の大型ダンサーです。開場前の稽古中、目が会ったときに見せた少年のような笑顔に思わず引き込まれました。王子様役だけでなくもっといろんな表情を舞台でも見たいものです。
秋元康臣
遅沢佑介
当たり前のように毎年クリスマスがやってきて「くるみ割り人形」が上演されます。1年が経つ早さに驚きこそすれ、それが幸せだということを感じたことはありませんでした。が、今年は違います。井上陽集さんがそこにいません。出演していないことは分かっていて「今日は何を踊るのかな?」と、いつの間にか心の奥で捜してしまいます。 雪の王子や花のワルツのソリストなど多くの役を演じてきた気品あるダンサーでした。25周年記念公演の華やかなロビーをみつめ、家族や友人達と今この瞬間を“共有する喜び”を噛みしめずにいられません。それこそが「くるみ割人形」を毎年見続ける意義ではないでしょうか。

写真・文 鈴木紳司

STAFF
芸術監督・振付/関 直人
美術・衣裳/ピーター・ファーマー
美術監修/橋本 潔
バレエミストレス/藤井直子、鶴見未穂子
鈴木麻子、横山美樹
音楽監督・指揮/堤 俊作
演奏/ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
照明プラン/古賀満平
照明操作/(有)満平舎
舞台監督/相馬勝己
衣裳製作/(株)柊舎
公演監督/岡本佳津子
制作/(財)井上バレエ団