堀内 元・堀内 充 「Ballet Collection2014

2014.5.30 めぐろパーシモン大ホール

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Gen Horiuchi & Jyu Horiuchi
Ballet Collection 2014

「ジャズコンボとオーケストラの対話」
振付 : 堀内 充 (original concept 堀内 完)  
音楽:Howard Brubeck
ローザンヌ賞先駆者のルーツと現在

伊地知優子

 堀内元、充、兄弟は、ローザンヌ国際コンクールが日本でまだ一般に知られていなかった頃のローザンヌ賞受賞で一躍脚光を浴びました(元は1980年、充は83年受賞)。いわば日本のローザンヌ出場の草分け的存在です。元は同時に振付賞も受賞し、充もその後、振付を多く手掛けていますので、兄弟ともに元来創作は好きだったようです。

 爾来30年以上を経て、元はアメリカ、充は日本、と本拠地を異にし、経歴も異なる兄弟が、それぞれ群舞を1つ、作家自身が女性と二人で踊るデュオを1作づつ披露して、計4作品、欲張らず、観客と膝を交えて対話するようなプログラムでした。

 昨年に続き第2回となる今回は、兄弟がともに舞台に立つのが20年ぶりというのも話題になりました。

 ローザンヌ賞受賞後バランシンに認められ、N.Y.シティバレエに入団、プリンシパルにまで昇格した元は、その後セントルイス・バレエ団の芸術監督に迎えられて今日に至っています。ジュニアで創作を始めて以来、その作風や踊り方、また指導者としてどう変わっていったのかに大変興味がありました。

 また充もダンサーとして名声を得る一方で、早くから創作を手掛けてきた点で共通しますが、その人生もバレエ一家という家庭環境に恵まれ、バランシンの名作を数々踊って大成した元と、東京では佐多達枝の数々の名作の主力を担うダンサーであった充も、成長期の山本禮子バレエ団などの振付けも多く手掛けています。大成する条件である「良い作品と指導者」に恵まれた点にも共通する兄弟です。

 歳月を経た二人の作風や踊りがどう変化していったのかに興味をそそられたのですが、それよりもまず印象に残ったのは、逆に、変わりそうにない二人の「まじめに、かちっと踊る、作る」という若い頃からの姿勢です。ジュニアのうちに優れた技巧を獲得した兄弟ですが、真ん中で見せ場を与えられてもこれみよがしに見せまくることはしないダンサーでした。二人に共通した「バレエの規範を逸脱しない」踊りが、とりわけ元、充それぞれが女性パートナーと踊ったデュオ作品に顕著でした。
 兄弟の父、堀内完の原振付を充が改訂した群舞「ジャズコンボとオーケストラの対話(Howard Brubeck曲)(1983年初演)で幕をあけます。
初演で自ら踊った充によれば、その後、原振付もずいぶん変わっていったので、ほぼ充が作り直したようですが、とはいえプログラムに「オリジナルコンセプト・堀内完」とあるように、恩師でもある完の作品のエッセンスは伝えたいという充の思いが込められ、ジャズの名曲とバレエのパが軽やかに触れ合いながら、絡むように、添うように流れて行く快さ。
ダンサーの坂本奈穂、梶川りり、佐藤彩、他)個々の離合集散が、時に群舞の一体感を生みながらも、群れへの埋没感がなく、個々のほどよい自己主張は、最初と最後の影絵にも集約されて粋な残像となりました。堀内完の、息子二人目のローザンヌ賞受賞当時の喜びに溢れた父親の心情が、今に蘇った親子の合作でした。
「Flower song」
振付 : 堀内 充
音楽 : Georges Bizet
 堀内充・振付の「Flower song(Georges Bizet曲)」は、夫人の行友裕子と充のデュオです。作品の説明が何もないプログラムですが、チラシには「ある苦しみに向き合う女性にエールを送る」とだけあり、具体的にどんな苦しみか、この男性との関係は?などは分かりません。分からなくても困らない作品です。これは行友裕子の舞踊力と美しさ、そして充の懸命に女性を引きたてようとする姿だけで、チラシの一行が様々に見えてくるからです。
堀内 充 & 行友 裕子
 下手手前に佇む行友の静謐な美しさが出だしから舞台を支配し、充の登場までにゆっくりと心の重荷を伝えます。この人には役を踊り分ける力があり、創作の作家からのお招きが多い人ですが、白いバレエがきちんと踊れるバレリーナです。以前大阪のバレエ団で客演した彼女のミルタは、日本で屈指のミルタ役者といえる出来映えでした。それを思い出させる今回の白いドレスの優美な女性像です。

 充は元と同様、年齡には見えない大きな動きで、憧れの女性をなんとか元気づけたいと必死に動き回る年下の青年のようにもみえます。役の設定がどうであれ、大切な人をなんとか支えたいという「愛」が、美しい大人の女性と献身的な男性の間に通うことが作品の核ですから、二人の兄妹でも夫婦でもいいし、充がもっと歳を取ったら父親という設定でもよさそうです。そういう幅が可能な普遍的な「心」の表現であり、ダンサーの力量次第で、意味も味わいも深まる作品です。

「Once in a Blue Moon」
振付:堀内 元
音楽:Erik Satie
谷口 愛海 & 堀内 元