(社)日本バレエ協会
第49回 バレエ・フェスティバル

2010.11.12 メルパルクホール

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JAPAN BALLET ASSOCIATION
BALLET FESTIVAL


江藤 勝己作品
ショスタコヴィチ
「ピアノコンチェルト」


山野博大の電脳バレエ横丁徘徊

 2010年11月12、13日、メルパルクホール東京で日本バレエ協会主催の《第49回バレエ・フェスティバル》が、江藤勝己さん振付の『ショスタコヴィチ・ピアノコンチェルト』、貞松正一郎さん振付の『アイ・ガット・リズム』、篠原聖一さん振付の『カルメン』の3作品により行われました。《バレエ・フェスティバル》は今から47年前の1963年に第1回が行われ、日本人が作った、日本発の創作バレエを確立しようという主旨で続けられています。
Ligang Zou&寺島ひろみ
 今回は、男性振付者3人の作品が並びました。まず『ショスタコヴィチ・ピアノコンチェルト』を発表した江藤勝己さんは《バレエ・フェスティバル》始まって以来の異色の舞踊作家と言ってもよさそうです。

津下 香織&河島 真之
 彼はピアニストであり、指揮者としての経験も持つれっきとした音楽家なのです。今は新国立劇場でバレエのレッスンのピアノを弾いています。その上にバレエそのものも実際にやっているというのです。三樹和子さん、橋浦勇さんに師事し、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で勉強してきたという実績を持ち、舞台で実際に踊ったこともあるというのですから驚きです。そればかりか、演出、振付もやっており、その成果を買われて《バレエ・フェスティバル》の場で作品を発表するチャンスをつかんだということなのです。

 彼はショスタコヴィチのピアノ・コンチェルトを使って、シンフォニック・バレエを創りました。3楽章から成るこの作品の各楽章それぞれに、白い衣裳を着た主演の男女ダンサーを下記のように配しました。 

【第1楽章】
寺島ひろみさん、リーガン・ゾウさん
【第2楽章】
津下香織さん、河島真之さん
【第3楽章】
平塚由紀子さん、冨川祐樹さん

平塚由紀子&冨川 祐樹
 その後に、薄いグレーの衣裳を着た4組の男女ソリスト、さらにやや濃いめのグレーの衣裳の女性6人のソリスト、そして黒の衣裳を着た16人の女性コール・ド・バレエが、各楽章共通で従うという構成でした。
 江藤さんは、音楽家らしいところを前面に押し出した振付を見せました。ピアノとオーケストラによる絶妙のやりとりが、ダンサーたちの動きに細かく反映していました。コール・ド・バレエについて見てみますと、全員が同じ動きをやるところ、それぞれが順に動きをつないでいくところなどをうまく使い分けていて、音楽の視覚化に役立てていました。ダンサーを左右対称に配置することはあまりなく、舞台全体を自由に使いこなして、白から黒の段階的なモノクロームの衣裳のダンサーたちに、すばらしい躍動感を与えました。ダンサーの個々に、ダンス・クラシック以外の特別な動きを要求することはほとんどなかったのですが、全体の構成の巧さにより、作品は新鮮な感覚にあふれたものとなりました。

 どうやら日本バレエ界にひとりの若い有能な振付者が登場したようです。今回はピアノとオーケストラの音楽に振付けたものを見せてもらったわけですが、ピアノのソロや弦楽四重奏など、他の形の音楽をどのように扱うかも見てみたいです。どこかのバレエ団が江藤さんに作品発表のチャンスを与えてくれることを期待します。


貞松正一郎作品
「アイ・ガットリズム」

 貞松正一郎さんは、ガーシュイン曲による『アイ・ガット・リズム』を発表しました。

 この作品は、2006年3月の貞松・浜田バレエ団《春のバレエ・コンサート》で初演され、その年の8月の日本バレエ協会《第34回全国合同バレエの夕べ》でも、中国支部の出演により再演されたものです。

富村 京子&藤野 暢央
大久保真貴子&吉田真由美
岩田 唯起子&法村 圭緒
 貞松さんは、すでに振付者としてのキャリアは長く、今回のようにポピュラー・ミュージックを使った軽快な作品もその実績の中には含まれています。1995年9月の貞松・浜田バレエ団《創作リサイタル7》で発表した『セイラーズ・セイリング』は、何度も繰り返し再演される彼の代表作ですし、2008年3月の貞松・浜田バレエ団公演《ラ・プリマヴェーラ?春?》で初演した『ラグタイム』も同様の楽しい一本でした。
 今回の『アイ・ガット・リズム』は、ガーシュインのおなじみのメロディーに振付けられた13のパートから成るディヴェルティスマン。音楽にジャズを使っているのですが、動きの方はダンス・クラシックのステップがほとんどなので、岩田唯起子さん、法村圭緒さんの両スターを中心にしたバレエ・ダンサーたちは、安心して舞台を楽しむことができたのではないでしょうか。踊る側の楽しさは、そのまま観客に伝わってくるものです。