2o2 A New Translation Of Roppongi Kingyo 「TOWA」
この舞台をつくったのが、伝説的な演出家でオーナーだった谷本捷三(しょうぞう)である。
谷本は80年代のディスコ全盛時代に、六本木のスクエアビルで10軒、全体では数十軒ディスコを経営していたといわれ、有名な高級クラブ、コルドンブルーなどの経営者でもあった。谷本の姉の池口麗子も、カンタベリーハウスチェーンなどを経営し、夜の女王といわれた。漫画にもなった、花登筺(はなと・こばこ)の小説『銭牝』のモデルである。
舞台、ショーに戻ろう。舞台の手前側に床から80センチほどの壁が立ち上がり、「何か隠れているのか?」と思ったら、上から雨が降ってきた。奥行き10センチほどの中に、舞台上から降ってくる雨が吸い込まれていく。そのため、その小さい壁が閉じると舞台は濡れていないという、水を使った巧みに設計された舞台装置だ。
音楽もビートルズ『カムトゥギャラザー』からシュープリームス、70年代ロック、アニメ音楽、そして最近のビリー・アイリッシュ『バッドガイ』まで数十曲が見事にコラージュされて、楽しめる。そして、歌舞伎や江戸風俗、忍者からアニメ、フラメンコ、現代までさまざまな踊りとモチーフだが、そこに太平洋戦争が登場する。
三線(さんしん)の生演奏を含む沖縄舞踊がいつしか沖縄戦の場面となり、そして特攻隊と戦争に翻弄される若い男女、そして進駐軍などが登場する。エンターテイメントショーにはちょっと重いテーマであり、米軍兵士も集まる六本木で敢えてそれを入れたことには、オーナーで演出家の谷本捷三や、振付師のロッキーこと山田仁のこだわりがあったのだろう。
また、以前は、唐十郎や寺山修司のようなアングラっぽい雰囲気のものもあったらしい。そして、唐の状況劇場のような舞台崩しとして、ラストはホリゾントを開け、裏の墓地が広がる!という演出もあったという。当時のタイトルも『艶色エレジー』や『はなれ瞽女おりん』など、ノスタルジックな匂いが漂う。
前衛芸術として現在世界的に広がっている舞踏だが、同性愛のモチーフも当初からあった。そして土方のショークラブと、ニューハーフが踊るショークラブの金魚が、六本木で間近にあったことは、とても感慨深い。そして土方が後期「東北歌舞伎」と称し、谷本が「NEO歌舞伎」と称したなど、共通点も垣間見える。
筆者は舞踏から入ってバレエ、日舞、コンテンポラリーダンス、フラメンコなどさまざまなダンスを見て、文章を書いてきたが、ショーダンスの世界の凄さ、深さを改めて知った夜だった。
2020.3.8 六本木 金魚所見
舞踊批評家:しが のぶお