六本木 金魚 25周年記念ショー「TOWA」
2020.3.8 シアターレストラン 六本木 金魚

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A New Translation
Of Roppongi Kingyo
「TOWA」


志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

「六本木に金魚を見る」

赤い劇場と振付家

 六本木の金魚といえば、ショークラブの老舗。1994年創業で昨年25周年を迎えた。場所は六本木の交差点からロアビル方向、ミッドタウンとは反対に向かった左の一本裏。赤いゴージャスな劇場のロビーから二階に上がると、劇場内部全体も赤く、まさに金魚の中に入るかのようだ。

 劇場内部の座席は階段状で、中の二階にも観客席がある、つまり三階四階分以上の吹き抜けの高い構造で、幅は十数メートルだが、二階席が左右まで取り巻く、ミニオペラハウスのような本格的な劇場構造だ。実は昭和期までは、こういった二階にも左右に観客席がある「馬蹄形」といわれる構造の大きいキャバレー、クラブがたくさんあったらしい。以前に新宿にあったカフェドパリもそういう構造だった。ただ、通常のショークラブは客席が平面が普通だが、この金魚は客席も階段状で、まさにショーをしっかり見せるための劇場となっているのだ。だが観客席というだけでなく、食事が楽しめるようなテーブルが設えられており、酒、食事、ショーを同時に満喫できる。

 劇場の雰囲気と構造にも驚いたが、ショーが始まってさらに驚いた。食事どころではない。圧倒的なさまざまなダンスが雨霰と降ってきて、たたみかけるように人や情景、音楽、衣装が替わり、あっという間の1時間。気がついたら飲み物を口にしたのはたった3回だけだった。それだけ筆者は、舞台に引き込まれていた。

 実は加賀谷香が振り付けているということで、見ることになったのだ。加賀谷は周知のように、パパ・タラフマラやHアール・カオスの舞台にも出演した、モダンからコンテンポラリーで活躍するダンサー、振付家だ。

 秋田出身で藤井信子、川村泉に学び、アルヴィン・エイリーのダンサーに師事、東京新聞の全国舞踊コンクールなどで賞をとり、コンテポラリーの舞台にも数多く出て、近年は江口隆哉賞、日本ダンスフォーラム賞も受賞している。同時に、このショークラブ金魚でも20年、振付を担当している。本人もエレガンスと鋭さを兼ね備えたダンサーであり、新国立劇場の公演でも振り付ける現役バリバリの踊り手だ。

めくるめく舞台

 舞台はマイケル・ジャクソンの『ビート・イット』(カバー曲)により、鏡獅子姿の11人が踊るインパクトのある場面で観客をつかむところから、音楽とダンスがあれよあれよと展開する。60分に30景はあったのではないか、と思わせるほど息をつかせない。それもハードあり、エレガントあり、エロスあり、忍者あり。登場する女性たちも美しい。

 1人際だって背の高い美女はニューハーフと目測した。ところが終わって、9人登場した女性のうち4人はニューハーフと聞いて、それにも驚いた。もっとも可憐な美少女に見えた子もそうだったとはーー。

 この日の出演者は男性2人、女性9人だったが、本来はもう少し多くのキャストでの舞台らしい。おそらく1人が5役以上こなし、10回以上衣装替えしているはずだ。ニューハーフ以外はダンス経験者だそうだが、ニューハーフも負けていない。区別がつかないほど、ダンスもしっかり見せる。たぶん「女の意地」が強いのだろう。
 だが、この舞台の凄さはそれだけではない。冒頭では、急な階段状の舞台に11人が鏡獅子姿で並び、ダンスが始まる。するとその階段が崩れて斜面から平面になり、さらに地下に降りて奈落になり、階段は左右中央に三つに分かれ、上の部分は二階に収納される。そしてさらに二階、三階の奥にも左右三つになった箱状の舞台空間があり、さらにその上から舞台が降りてくるという、おそらく四階構造になっているのだ。そして、階段が消えると坂になったり、変幻自在。多いときは地下、中央、二階、三階で人が踊り、そのステージが絶えず移動している。
 さらに手前の部分の床は、動く歩道のように左右に動き、上手から立ったまま、あるいはちゃぶ台に座ったまま登場し下手に消えーー、絶えずステージが動き続けている。その上で、中で、下でダンサーたちが踊り続けるのだ。一歩間違ったらとんでもない事故になりそうな凄い仕掛けだ。ところが聞くと、この日はまだ70%くらいしか動いていないという。演出で使ってない機能がもっともっとあるらしい。特別な設計で三菱重工の技術者がつくったらしい。