NBAバレエ団公演「ホラーナイト」
2020.2.15&16 新国立劇場 中劇場

2o2
NBA Ballet Company
「HORROR NIGHT」

30分の休憩を挟んで、第二部は『ドラキュラ』。あらかた観客が客席についたところで、急に客席の照明が消えて真っ暗になる。驚いた観客のざわめきとともに始まるのは、初演時と同じだ。プロローグは、ルーマニアのドラキュラ伯爵の元から命からがら戻ったジョナサンが、ベッドの上でうなされている場面。ルーマニアの村人、三匹の魔物、ミーナとの結婚式のエピソードなどが、いかにも悪夢といったふうにループする。紗幕に真っ赤な文字でDraculaと映し出されたのち、第一幕はジョナサンが、ミーナやヴァン・ヘルシング教授(バレエ版は最初からヴァン・ヘルシング教授が登場するのだ)に見送られてルーマニア出張に旅立つ光景から始まる。
ジョナサン・ハーカー:大森康正&ミーナ:竹内碧
続くルーマニアの村のシーンは、群舞の見せ場だ。重心を低く保ち、時に力強く飛び上がる男たちと、上半身をしならせながら踊る女たちは、ドラキュラ伯爵への恐怖と怒りに苦しんでいる。初演時もこの場面の高い集中力が、全幕に良い流れを作っていたが、今回も迫力のある踊りが見られた。村人は同じ衣装を着て同じ振り付けを踊っているが、そろい過ぎずにほどよく乱れている。それが一人一人の個性となっていた。怪力の御者が現れ、ジョナサンはドラキュラ伯爵の待つ城に到着する。
2/15マチネ
2/16
2/15ソワレ
ドラキュラ
平野亮一
宝満直也
ジョナサン・ハーカー
宮内浩之
大森康正
ミーナ
峰岸千晶
竹内碧
ドラキュラ:宝満直也&大森康正
3人の女バンパイア:猪嶋沙織/菊地結子/阪本絵利奈
息もつかせぬ勢いの音楽が一転し、静かなピアノの曲に代わる。真っ赤なガウン姿のドラキュラ伯爵がカミテ奥から登場する。血に飢えた伯爵は、この時はまだ長髪で白髪の老人の姿だ。長身の平野は存在感があり、ジョナサンとの男同士のパ・ド・ドゥでもジョナサンを難なくリフトする。しかし平野は登場時から少々存在感がありすぎたようだ。高齢の伯爵がジョナサンの重い荷物を軽々と運ぶ場面は、伯爵の超人性を表す場面だが、平野の老伯爵は堂々たる姿で、長持ちを持ち上げることに驚きはない。強靭さを感じるのは、平野に備わったクラシック・バレエのテクニックゆえでもある。身につけたテクニックをどこまで崩せるのか。そのさじ加減もまた本作を踊るダンサーのしどころの一つだ。ドラキュラ伯爵の“トランスフォーム”は本作の重要な見所だが、吸血して若返った姿で登場する第二幕を、平野はどのように演じるのだろうか。その答えは8月まで待つことにしよう。
宝満直也&大森康正
『ドラキュラ』はセリフやボーカルの入ったサウンドや、映像を取り入れたケレン味あふれる作品で、バレエ初心者も楽しめる。さらに作中のエピソードが巧みに挿入されていて、小説のファンもニンマリだ。実際のところ本作は、ブラム・ストーカーの原作を読んでいる方が断然面白い。ゴシック小説らしさのある一幕、若返った伯爵がイギリスに上陸する二幕、そして身元が割れてイギリスを去る伯爵をヴァン・ヘルシングたちが追いつめる第三幕と、全幕が小説の大まかな区切りに倣っている。芸術監督に久保紘一が就任して以来、エンターテイメント性を前面に打ち出しているNBAバレエ団が、カンパニーの魅力を最大限アピールできる作品が『ドラキュラ』だ。早くも今夏の全幕公演が待ち遠しい。

2020年2月15日マチネ所見 新国立劇場中ホール

すみだ・ゆう=詩人/舞踊批評家

STAFF

芸術監督・演出/久保綋一 
原作:ブラム・ストーカー
作曲:フィリップ・フィーニー
振付:マイケル・ピンク(ドラキュラ)/宝満直也(狼男)
バレエ・マスター/榎本晴夫、久保栄治、鈴木正彦
バレエミストレス:浅井杏里/関口祐美
ゲストバレエマスター:デニス・マリンキン

舞台監督:千葉翔太郎
照明プラン・照明:デビッド・グリル・辻井太郎
音響プラン・音響:佐藤利彦 
映像プラン・映像:立石勇人
舞台美術デザイン:レズ・ブラザーストーン/安藤基彦
衣装デザイン:レズ・ブラザーストーン
衣装:コロラドバレエ・仲村祐妃子(ドラキュラ)/堂本教子(狼男)
 
制作プロデューサー:恒川正美