NBAバレエ団公演「ホラーナイト」
2020.2.15&16 新国立劇場 中劇場

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NBA Ballet Company
「HORROR NIGHT」


隅田有のシアターインキュベーター

2014年のハロウィン・シーズンに、NBAバレエ団が日本のバレエ団として初演した『ドラキュラ』(振付:マイケル・ピンク)が、約5年半ぶりに再演された。ロイヤル・バレエ団のプリンシパル 平野亮一がゲスト出演することが話題となったが、今回の上演はプロローグと一幕だけ。8月に予定されている全幕公演のプレビューといった趣向だろうか。同時上演は注目の振付家、宝満直也の新作。『3匹の子ぶた』『11匹わんちゃん』に続く“けものシリーズ”なのかどうか、それはさておき今回のテーマは狼男だった。15日のマチネをレポートする。
『狼男』は約40分の舞台。曲はミニマル音楽が使われていたが、音を使わないシーンもある。幕が開くと、床に男たちが寝そべっており、後方を女たちが横切る。そこに狼が現れて一人が犠牲になる。背後から照らすライトが出演者をシルエットで見せるため、誰が襲い、誰が襲われたのか、見分けがつかない。これが伏線となるシーンだった。
a man:高橋真之&a girl:勅使河原綾乃
2/15(土)マチネ
2/16(日)
2/15(土)ソワレ
「狼男」a man
森田維央
高橋真之
「狼男」a girl
竹田仁美
勅使河原綾乃
主人公は一匹狼のように振る舞う男。a man(森田維央)という役名で、周りの人間はa manに興味を持ちつつも恐ごわ接している。a girl(竹田仁美)はa manの心の支えとなり、時には暴走しそうになるa manを制止する健気な娘だ。舞台では次々と犠牲者が出るが、冒頭のシーン同様、誰が襲っているのかは定かでない。

ところで『人狼』というカードゲームがある。参加者の役割が伏せられた中、誰が人狼なのかを推理で探し当てるゲームだ。筆者は、このゲームのアイデアが本作に取り入れられているのではないかと睨んでいる。なぜ襲われるシーンがはっきりと描かれないまま、犠牲者だけが増えていくのか、a manは果たして狼男なのか、といった疑問に胸をざわつかせながら観ていると、ラストにどんでん返しが待っていた。次々と人を襲っていた真犯人はa girlだったのだ。血糊で首の周りを染めたa girlがa manに襲い掛かった瞬間に、暗転して幕となった。
序盤の男性たちの力強い踊りやa manとa girlのパ・ド・ドゥなど、振付に見所は多い。中盤のa manと6人の男性のコミカルなシーンや、その後に挿入される主役二人のリフトの多いデュエット、そしてコール・ド・バレエとの絡みは、特に見応えのあるシーンだった。アレグロのうまい竹田が、無駄を削ぎ落とした動きで、一つ一つのステップを的確に見せていた。対して終盤のメランコリックなパ・ド・ドゥは、宝満の振付にしては珍しく、音に対してムーヴメントが不足気味で、動きの組み合わせも若干ちぐはぐな印象だった。
ラストに種明かしがあるスリリングな構成のバレエは珍しく、ムーヴメントで笑いを取る中盤のコントも愉快だ。同時に、愛するものを失う悲しみや、胸に潜む暴力性など、エモーショナルな表現も要所要所で強調される。宝満は元来切なさを描くのがうまい振付家だが、スリルとユーモアがキリッと立ち上がる本作には”心”の描写が少しだけ重く感じられた。テーマを絞ると更にソリッドな作品になりそうだ。ひょっとしたら切なさも、行間に炙り出されるかもしれない。
高橋真之/刑部星矢/勅使河原綾乃