2011都民芸術フェスティバル参加公演
(社)日本バレエ協会
「ドン・キホーテ」全幕

2011.1.28 東京文化会館・大ホール

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JAPAN BALLET ASSOCIATION
「Don Quixote」

相手役の床屋の青年バジルを演じたのは、香港バレエ団とオーストラリア・バレエ団を経て、日本に活動拠点を移した藤野暢央。筆者の知る限り酒井と初共演ながら、両人の他愛のない意地の張り合いや駆け引きの呼吸は上々。時折、サポートが不安定になる場面も見受けられたが、エリザリエフが多用する、女性を頭上に高々と持ち上げるリフトは難なくこなし、頼もしい。
酒井 はな&藤野 暢央
脇役達を存分に活かすことも、エリザリエフ演出の特長。キトリとの結婚を望む金持ち貴族ガマーシュを、これでもかという程に賑々しく振る舞わせ、なおかつ相当に踊らせる。アレクサンドル・ミシューチンが大熱演、各幕のカーテンコールまで仰々しく仕切って観客を沸かせたほど。ガマーシュは立ち役ではなく、現役または往年のダンスールノーブル、あるいは相当の巧者が演じるべき役であることを、改めて痛感した。

闘牛士エスパーダと踊り子メルセデス(田中ルリ)が、キトリとバジルのごく親しい友達として各幕に登場する演出も、エリザリエフ版ならでは。エスパーダ役には、今村泰典という適材を得た。 膝裏が伸びきらないといった技術面の課題もあったが、舞台映えする容姿に加えて、芝居っ気も申し分ない。キザな闘牛士になりきって、舞台を盛り上げた。

今回、舞台美術と衣装を大阪の法村友井バレエ団(及び、緒方規矩子、谷桃子バレエ団)が提供したためなのか、出演者には例年以上に関西勢が目立つ。 法村友井に籍を置く今村もその一人で、さらに29日の法村珠里=キトリと奥村康祐=バジル、30日の西田佑子=キトリ、法村圭緒=バジルも関西出身今村に率いられた闘牛士の中にも、舞台映えのする容姿と覇気を兼ね備えたダンサーが散見された。

配役表を見たところ、新国立劇場登録ダンサーの泊陽平やKバレエカンパニー団員だった石黒善大等の名前を発見。準主役級にしろ群舞にしろ、出演者にうってつけの人材を得ると、舞台はがぜん、見応えを増す。関西出身者と日本の主力カンパニーで鍛えられたダンサーの底力を見たようだった。

酒井 はな&藤野 暢央
ジプシーの踊り子:小川 友梨
ジプシーの親方:原田 公司&小川 友梨
第2幕1場「ロマ(プログラム表記は、ジプシー)の野営地」もエリザリエフ流の演出で始まった。キトリとバジルが踊るデュエット振付で、往年のソビエト・バレエを彷彿させるアクロバチックなリフトを多用しているのだ。1幕にもお目見えした、キトリを高々と持ち上げたまま、バジルが舞台を縦横に歩く振付も繰り返され、エリザリエフ振付のトレードマークとして印象に残る。

やがて野営地にドン・キホーテとサンチョ・パンサが到着、ロマの男女が踊りを披露するものの、ドン・キホーテを憤慨させる人形劇はカット、キホーテ公が風車に巻き上げられ、落下する場面もカット。彼が風車に向かって槍を投げるや、足元がおぼつかなくなって失神、彼の夢のなかで森の妖精達が乱舞する幻想シーンに転じる。この場面転換の直前、キューピッドとドルシネア姫が中幕の奥に現れてキホーテ公を彼方に誘う、プロローグと同じ光景が繰り返される。 劇中劇ならぬ、夢中夢として森の場面を位置づけているわけだ。

森の女王:富村 京子
森の女王役を演じたのは、 香港バレエ団プリンシパルの富村京子。ダイナミックな跳躍や連続旋回を着実に踊りこなし、小柄な肢体をひとまわり大きく見せた。キューピッド役の福田有美子も手堅いテクニックの持ち主で、『眠れる森の美女』の男性パート、青い鳥さながらに、体の前後で脚を交互に打ち合わせる<ブリゼ>を披露。 通常演出以上に高度なテクニックが盛り込まれており、美技を見せることも古典バレエの妙、とエリザリエフが心得ていることをうかがわせる。 圧巻は、ドルシネアに扮した酒井のソロ。 手脚が描くべきラインを描く様が、実に小気味よい。 テクニックのキレもさることながら、踊りに風格が満ちている。にこやかな笑みをたたえて町娘キトリの風情を残しつつ、優雅でスケールの大きな身のこなしで姫君そのものに変身した。
キューピット:福田有美子
ドゥルシネア姫: 酒井 はな