2011都民芸術フェスティバル参加公演
(社)日本バレエ協会
「ドン・キホーテ」全幕

2011.1.28 東京文化会館・大ホール

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JAPAN BALLET ASSOCIATION
「Don Quixote」

ドン・キホーテ:桝竹 眞也

サンチョ・パンサ:佐藤 祐基

「上野房子のダンス・ジャーナル」


今年も日本バレエ協会の全幕公演に、新国立劇場のオノラブル・ダンサー、酒井はなが戻ってきた。彼女が「都民芸術フェスティバル(主催:東京都)」の一環をなす同協会公演に主演するのは、2009年以来、3年連続。今年の演目、ワレンチン・エリザリエフ版『ドン・キホーテ』の改訂演出に“なるほど”と膝を打ちながら、酒井の熟達の踊りを堪能した。
キトリ: 酒井 はな
酒井 はな&バジル:藤野 暢央
再改訂振付と演出を手がけたワレンチン・エリザリエフは、アゼルバイジャン共和国生まれの振付家。同地のバレエ学校とワガノワ・バレエ学校、さらにレニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)国立音楽院で学んだ後、ベラルーシ国立ミンスク・ボリショイ・オペラ・バレエ劇場の主任振付家に就任、1992年より芸術監督を務める古参である。

一見するとオーソドックスな全3幕に見えるが、冗長ないし説明的になりがちな場面をカット、ディテールを調整してドラマの展開にスピード感と独自の整合性をもたらしている。さらに、主要キャラクターの踊りを増やして、妙技を見る楽しさも補強。ユニークかつ優れた改訂版に、幾度も、なるほど、と膝を打つこととなった。
エスパーダ:今村 泰典
メルセデス:田中 ルリ
佐藤 祐基
プロローグから、エリザリエフ色が全開だ。本人による台本には「ドン・キホーテの書斎」と記されてはいるけれども、 書斎のしつらえは用いず、大きな扇を描いた中幕を下ろしただけの舞台を、 少なくとも筆者は、 特定の場所ではなく、ドン・キホーテ(桝竹眞也)が見ている夢の世界と受け止めた。そこにキューピッドが現れてドルシネア姫の幻影をドン・キホーテに見せ、老公を未だ見ぬ姫君の基に導いていく情景は、劇中劇ならぬ、夢中夢の始まりではないか。少なくとも筆者は、ドン・キホーテの諸国漫遊という現実ではなく、彼が思い描く夢の世界を覗き込む気分になったのだった。
ロレンツォ:本多 実男
キトリの友人:キミホ・ハルバート&渡辺 幸
ガマーシュ:アレクサンドル・ミシューチン
場面は陽光あふれる「バルセロナの広場」に早変わりし、酒井扮するキトリが登場する。気っ風の良い町娘らしく、顔の表情を大らかに使って愛嬌を振りまく一方、艶やかな色気も垣間見せる。つむじ風のようなパワーで見る者を圧倒する演じ方をしていたこともある酒井だが、当夜は、いま現在の酒井だからこその円熟味の勝ったキトリ像を造形した。踊りの見せ方がまた秀逸で、緩急自在の間合い、肩や腕のラインの使い方、胸元の開き方、視線の動かし方、強弱の付け方が、実に的確。その一つひとつは何気ないことでも、これらが積み重なることによって画竜に点睛が入り、魅惑的なキトリが生み出された。