井上バレエ団7月公演
オーギュスト・ブルノンヴィル の世界


2014.7.19 文京シビックホール 大ホール

2of 2
The Inoue Ballet Foundation
The World of August Bournonville

魔女マッジ:エヴァ・クロボーグ
 居間に集う客たちがバグパイプに合わせて踊る。ダンスの中心はジェイムスとその許嫁エフィーの西川知佳子。スコットランドのチェック模様の鮮やかな衣裳のダンサーたちが舞う。とつぜん現われたラ・シルフィードの宮嵜万央理がめまぐるしく出入りする。ジェイムスの頭はすっかり混乱して、エンゲージ・リングの交換という大事なところで、ラ・シルフィードを追って居間から消える。
ラ・シルフィード:宮嵜万央里
ジェイムス:エマニュエル・ティボー
 第2幕はラ・シルフィードの住む森の中。白い衣裳の妖精たちの群舞を背景に、ジェイムスとラ・シルフィードが優雅にパ・ド・ドゥを踊る。パリ・オペラ座育ちのティボーは世界に名の知れたダンスール・ノーブルだ。しかし2007年以来、すでに何度も井上バレエ団公演にゲスト出演しているので、この『ラ・シルフィード』の舞台にも違和感なく溶け込み、神妙に宮嵜万央理の相手をつとめた。
エマニュエル・ティボー
 マッジの魔法のせいで息を引き取り、天へ昇って行くラ・シルフィードの亡骸を呆然と見送るジェイムス。その遠景に、エフィーの結婚の行列が見えている。『ラ・シルフィード』の男性主役は、許嫁を他の男に取られた上に、愛したラ・シルフィードにも死なれてしまうのだから、もう踏んだり蹴ったり。同性としては、かわいそうでとても見ていられない。
宮嵜万央里
エマニュエル・ティボー&宮嵜万央里
 『コンセルヴァトワール』は、1849年にコペンハーゲンで初演された2幕もののバレエだ。しかし現在は第2幕のパリ・オペラ座バレエ学校のシーンだけしか残っていない。そのブルノンヴィルの原振付をフランク・アンダーソンが井上バレエ団のために振付けた。レッスン風景なので、まったくごまかしがきかない。ここで井上バレエ団のダンサーたちは、パリ・オペラ座バレエ学校の生徒になりきらなければいけないのだ。教師役の、デンマーク王立バレエ団育ちのウルリク・ビルキエールに従い、全員がけんめいにバレエのレッスンに取り組んだ。
 日本のバレエの歴史はまだ100年だ。1581年に行われたカトリーヌ・ド・メディシスによる「王妃のバレエ・コミック」から数えても、ヨーロッパのバレエには400年以上の歴史がある。その差を考えれば、井上バレエ団の『コンセルヴァトワール』出演者たちはよくやっていた。いつの日か日本のバレエは、この差を必ず埋めてくれるはずだ。

2014年7月19日/文京シビックホール 所見 

舞踊批評家 やまの はくだい

宮嵜万央里
STAFF

芸術監督/関 直人
振付/オーギュスト・ブルノンヴィル
再振付・指導/フランク・アンダーソン、エヴァ・クロボーグ
美術監督/橋本 潔
ゲスト・バレエミストレス/ペトルーシュカ・ブロホルム
バレエミストレス/藤井直子、鶴見美穂子(ラ・シルフィード)
         鈴木麻子、宮嵜万央里(コンセルヴァトワール)

指揮/御法川雄矢
演奏/ロイヤルチェンバーオーケストラ

照明/立川直也(満平舎)
舞台監督/相馬勝己
音響/貫井政仁
衣裳制作/(株)柊舎
公演監督/岡本佳津子
制作/公益財団法人井上バレエ団