井上バレエ団 7月公演
ピーター・ファーマー美術による
「コッペリア」全三幕 


2010.7.17 文京シビックホール・大ホール

2of 2
Inoue Ballet
「COPPELIA」

 一幕は戸外ですから、登場人物は内面よりも、その社会、地域の中ではどういう立場で、周囲との人間関係はどうなのか、といった全体との関わり、外的な「状況」が描かれます。そして主役たちの性格や心の動きに一歩踏み込んだ心理的描写は2幕で展開します。
シリル・アタナソフ&エマニュエル・ティボー
宮嵜万央里&シリル・アタナソフ
 時代と環境を暗示し、地域の人間関係を若者たちとの絡みとともに描いた他人から見た一幕の老人像と、2幕で見せた人物の中身、すなわち発明狂、科学に心酔し、結果を信じきった子供のように純真で浮き世離れした老人の一徹さとおかし味、これらが伝えるべき場面でごく自然に表現されて行き、ついには変わり者だが物凄い才能を持つ老人の面白さが浮かび上がってきます。アタナソフ・コッペリウスは、臭くもえぐくもないのに腰のあるだしの旨味が舌に溶けこんで、何杯でもお代わりをしそうな料理のようでした。
時の踊り
 フランツのティボーは、馴染みのゲストであるせいか、堅くならず、素直な青年を印象づけましたが、例えば優しさとか、短気とか、陽気とか、もう少し性格付けが出来れば魅力が増したでしょう。宮嵜スワニルダは1幕でフランツに、いつまでもプンプン怒っていましたが、コッペリウスと渡り合う2幕でこの人のうまさが発揮され、魅力が出てきました。
時の踊り:田川裕梨
あけぼの:西川知佳子
祈り:鶴見未穂子
仕事
 アンサンブルでは、1幕のフランツの友人たちが姿も踊りも美しく、かちっと踊るダンサーを集めていました。また3幕の「戦いの踊り」が振付け、踊りともに良く出来ていて前後の流れをひき締める見せ場のひとつになっていました。
戦い:下島功佐
戦い:野澤夏奈、阿部真央、五十嵐耕司、有水俊介
 コッペリウスの仕事場は人形たちの衣装が美しく、それぞれに色彩、デザインが魅力的で、これはコッペリウスのセンスと腕の良さということになり、この老人の魅力が増す大切な点でもあります。特に中国人形(桑原智昭)のダイナミックな踊りは、老人の機械仕掛けの非凡な腕を証明して楽しい工房の雰囲気が伝わってきました。

(2010年7月17日文京シビック大ホール所見

 いじち・ゆうこ=舞踊批評家)

エマニュエル・ティボー&宮嵜万央里
STAFF

芸術監督・振付/関 直人
美術・衣裳/ピーター・ファーマー
美術監督/橋本 潔
バレエミストレス/藤井直子、鶴見未穂子、鈴木麻子

音楽監督・指揮/堤 俊作
演奏/ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
照明/古賀満平
舞台監督/相馬勝己
音響/貫井誠仁
衣裳製作/(株)柊舎

公演監督/岡本佳津子
制作/(財)井上バレエ団