井上バレエ団 7月公演
ピーター・ファーマー美術による
「コッペリア」全三幕 


2010.7.17 文京シビックホール・大ホール

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Inoue Ballet
「COPPELIA」


10年ぶりの名演 vs. 初挑戦のスワニルダ

伊地知優子

 井上バレエ団の舞台といえば、ピーター・ファーマーの美しい舞台がぱっと目に浮かぶほどファーマーの美術による古典作品を多く上演してきたバレエ団です。今回の「コッペリア」もその代表的なひとつで、10年ぶりの上演です。
フランツ:エマニュエル・ティボー&スワニルダ:宮嵜万央里
 10年ぶりの話題は、コッペリウス役にかつて客演していたパリ・オペラ座のシリル・アタナソフ10年ぶりの客演です。名手でさえあれば、コッペリウス役はどんなに歳をとってもそれなりに見せられる役なので、いいコッペリウス役者であればあるほど、10年後さらにまた10年後と次第に歳を取っていくコッペリウスをまた見てみたいと思うものです。久々のアタナソフの登場は、かつての名演が忘れられない観客は雀躍して迎えた舞台だったに違いありません。
チャルダッシュ:福沢真璃江、増田真也
コッペリウス:シリル・アタナソフ
スワニルダの友達:西川知佳子、大島夏希、菅野やよひ、越智ふじの、大長紗希子、吉竹ゆかり
 対する主役の若い二人には、フランツにパリ・オペラ座からエマヌエル・ティボーを招き(井上バレエ団ではお馴染みです)、スワニルダを宮嵜万央里と田中りなで分け合いました。(筆者所見は宮嵜の日)
 幕開きから楽しかったのは、まず前奏曲でのどかな村の夜明け、そして人々の活気、明るさなど舞台の雰囲気が早くも満ちてきた音楽の楽しさ(堤俊作指揮・ロイヤルメトロポリタン管弦楽団)のなか幕が開き、上手のコッペリウス家、下手のスワニルダの家というお馴染みの風景ですが、この家、とくにコッペリウスのベランダのある木造2階建ての作りが良く出来ていて、いかにも19世紀の田舎の風情が漂い、たちまち時代のなかに引き込まれるのです。
スコットランド人形:石原由加里 ピエロ:南 健二
中国人形:桑原智昭
ムーア人形:加藤健一
 その家から出てくるコッペリウスは、やはり今どき見掛けることのない、19世紀の老人です。現代社会の老人は一歩町へ出ると、頻繁に行き交う車、オートバイ、人、泥棒、詐欺師、乱暴者、などでいっぱいの周囲に用心をして、腰の曲がった杖を頼りの老人でさえ顔は上げて前を向き、横も向いて歩くのです。コッペリウスは、出会う人は皆知り合いで、危険な目に遭うことのない村の老人らしく、下向き加減で自分の関心事だけを考えてマイペースで歩いていきます。そのため若者たちのからかいに遭ってもみあった時に、家の鍵を落としても気付かないのです。
トルコ人形:玉利智祐
スペイン人形:矢杉朱里
コッペリア:井野口美沙