大和シティーバレエ「GISELLE」
2023.8.18 
大和市 シリウス 芸術文化ホール

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Yamato City Ballet&Yamato City Dance
「GISELLE」


Photographer's Eye

《Act1:Contemporary》
ジゼル:木村優里
アルブレヒト:佐藤洋介
バチルド:本島美和
ヒラリオン:林田海里

クラシック・ダンサーとコンテンポラリー・ダンサーがそれぞれのジャンルを違えて挑戦しました。

HPには
1幕は躍動感あふれるコンテンポラリーダンス
2幕は様式美のクラシックバレエ と記載され、

またプログラムには
「主人公とすべての配役を別の角度から見直し、それぞれが持つ魂の軌跡に焦点を合わせました」とあります。一見コンテは分かりづらいのですが、古典のストーリーと比較しながらレポートします。


幕開き、ジゼルとアルブレヒトが「ロミオとジュリエット」のようにバルコニー越しで固く手を繋ぐ場面から始まります。夢なのか、過去に思いを馳せるのか、アルブレヒトの目は閉じられていて、ジゼルの手を探り当てた瞬間わずかにほほえみます。が、妻バチルドが登場することで現実に引き戻されたようです。かなり現代的でドラマティックな始まりです。

アルブレヒト:佐藤洋介&ジゼル:木村優里
長峰麻貴さんの舞台美術は、正面から見ると3角形の大きなパネルが何枚もボーダーバトンにセットされていて、物語の進行に合わせて上下し、大胆に場転換を仕掛けてきます。「ジゼルパネル」「アルブレヒトパネル」などとと名付けたそうで、登場人物が2人の時は2枚のパネルが、3人の時は3枚がボーダーで降りて来るそうです。登場人物のバックボーンと解釈しましたが、ストーリーが進むと心強い守護霊にも見えてきます。
アルブレヒト:佐藤洋介&ジバチルド:本島美和
ヒラリオンが登場、ベルタなど親しい人に挨拶するような演出はないので、そこだけ捉えると、まるでストーカーのように狂おしくジゼルに迫ります。迫られたジゼルも忌み嫌うのではなく、紙一重で(笑)かわしながら、好意を持っていないことを伝えようとしているようです。バレエのマイムがない分スピーディーに物語が進行します。
主役二人の出会いは、背中越しの触れ合いはもちろん、ためらう素振りもなく、熱い包容から始まりすでに恋人どうしであることを示します。マッツ・エック版「ジゼル」でジゼルがアルブレヒトの背中におぶさったりするストレートな愛情表現を思い出しました。

アルブレヒトがジゼルの頭をポンポンと触り、低く下げさせようとするシーンが3度ほど。彼女の奔放さをたしなめているようですが、身分違いの恋を象徴しているようにも思えます。そこへ忍び寄る“黒い影”ならぬバチルド。ジゼルの存在を薄々感じていたと捉えるのが自然です。繰り返される《ジゼルがアルブレヒトを蹴飛ばすように見えるゆっくりとしたデベロッペ》は、彼の心を独り占めできない故の抵抗なのでしょうか。

緞帳ラインに紗幕が降りてきました。宮廷と庶民を隔てる壁なのかと思いましたが、どうやらヒラリオンの想像を具現化したようです。貴族の紋章を照合するための“剣と角笛”がありませんので、彼の直感が活きます。登場する4組のカップルは、制服を来ているようですので宮廷の女官と兵士でしょうか?シンクロされた動きがユニークで撮影しながら何度か吹き出しました。
ヒラリオン:木下嘉人
ジゼルとの密会の荒い呼吸が収まる間もなくバチルドとの夫婦生活。儀礼的なダンスが仮面夫婦を思わせます。村と宮廷の距離・時間を超越する、あっという間のの瞬間移動はコンテの得意技です。(笑)
佐藤洋介/林田海里/木村優里
木村優里&本島美和
両天秤だったことがヒラリオンにさらされた直後、アルブレヒトは石になったように静止します。多くの「ジゼル」演出は、ベルタやその父親に言い訳がましく取り繕うのですが、真逆のフリーズがよりリアルです。浮気がバレたときの男性の心情を最も的確に表現! さらに静止が長引くことで「遊びではなかった。本当の愛情だった」ことを悟った瞬間と私は捉えました。
バレた驚きと気恥ずかしさゆえのアルブレヒトの静止。それを必死にとりなすジゼルの「嘘よね」「愛してるのはあたしだけよね」の叫びが聞こえてきくるようですが、彼はそれにも無反応。あまりにも冷たい仕打ちが狂乱に繋がります。花占いの演出はありませんのでアンナバンのポーズ、彼の腕の中に抱かれた思い出なのでしょうか。
死んだ「ジゼル」を人形のように振り回す場面は秀悦です。アルブレヒトを軸にジゼルがフェッテされているような印象ですが、永遠に続くかのような悲しみと慟哭が伝わりました。