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Tani Momoko Ballet
「Swan Lake」

谷桃子バレエ団創立60周年記念公演1
「白鳥の湖」全4幕

2009.1.24&25 新国立劇場中劇場
道化:山科諒馬
花嫁候補の姫たち:三浦 梢、広瀬万弥子、新井 望、福原玲子、山本里香、津下麻里亜
オディール:緒方麻衣/ロットバルト:近藤徹志
王妃:廣瀬絢香
スペインの踊り:川原亜也、川島春生、樋口みのり、岸田隆輔
イタリアの踊り:木田玲奈、中武啓吾
ロシアの踊り(ルースカヤ):相澤美和、川瀬美和、松村優子
 視線を共演者達に移してみよう。1幕のパ・ド・トロアを踊った、正木智子の安定した踊りが印象深い。よく鍛えられ、爪先までピンと伸びた脚から繰り出す、弾けるような動きが心地よく、全く違うトレーニングの賜物なのかと思ってしまう。

 いま一度、椅子から身を乗り出して堪能したのが、3幕のチャルダシュ[プログラムの表記は、チャルダス]の男性アンサンブル(長清智、敖 強、須藤悠、吉田邑那)。超人的なテクニックを駆使していなくても、膝裏をきっちりと伸ばして威風堂々と立ち、歩き、躍動する姿に目が釘付けになった。ラッパ卒(鷲見雄馬、増子良祐)にも注目。時折、ステージ後方でラッパを吹くだけの立ち役とはいえ、背筋を伸ばして胸郭を開いた、見事な立ち姿に見惚れてしまった。

ハンガリーの踊り:瀬田統子、脇塚 力
王子:三木雄馬 & オディール:緒方麻衣
 換言すれば、彼らのように威風堂々とした立ち居振る舞いをあまり目にできなかった、ということなのだ。1幕の男性アンサンブル、あるいは3幕の男性貴族が何気なく舞台を歩く姿に、舞台人に相応しい品格が行きわたっていないのは辛い。一部の男性の乱れた髪型や不似合いな髪色には納得がいかない。あるいは、男性ソリスト等が技巧をこらして敏捷に踊るべき場面で、緩んだ爪先を目にするのは辛い。ダンサー個人の技量の優劣ではなく、彼等を指導してきた教師と演出家達が、これらの問題点を看過してきたことに対する失望だ。一つひとつは些細なボタンの掛け違いかもしれない。けれども、幾つもの点が連なって線になり、面になった時、古典バレエという一幅の絵の魅力が損なわれてしまう。
緒方麻衣
 公演を見ながら、こんなことを考えた。見る者を圧倒する「個」の発露を見たい。熱い演技の応酬を見たい。覇気に満ちたアンサンブルのめくるめく競演を見たい。次に何が起きるのか、個性的なダンサー達が何をやらかすのか、ワクワク、ドキドキしながら舞台を見つめたい。往年の名バレリーナ谷桃子氏が創設し、個性派バレリーナを輩出してきたバレエ団で、このような舞台に出会えることを心から願っている。

新国立劇場中劇場 2009.1.24 マチネ所見

舞踊批評家 上野房子

緒方麻衣&三木雄馬
芸術監督:谷 桃子氏
STAFF

音楽/P.I.チャイコフスキー
原振付/マリウス・プティパ=レフ・イワノフ
芸術監督・再演出・再振付/谷 桃子

演出補佐/望月則彦
バレエミストレス/鈴木和子、広瀬和子
バレエマスター/赤城 圭、平田貴義

舞台美術/橋本 潔
衣裳美術/緒方規矩子、合田瀧秀
照明/中沢幸子(梶ライティングデザイン)
舞台監督/福島 章

音楽監督・指揮/福田一雄
演奏/東京ニューシティ管弦楽団

主催/谷桃子バレエ団
マネジメント/新演奏家協会