1of 1
Inoue Ballet Foundation

「From Romantic to Contemporary」

(公財)井上バレエ団
ロマンティックからコンテンポラリーまで
「バレエの潮流Ⅱ」

22.6.18&19 東京芸術劇場プレイハウス

「ラ・ヴェンタナ」
振付 / オーギュスト・ブルノンヴィル
曲 / ロンビュー、ホルム
再振付・指導 / フランク・アンダーソン、エヴァ・クロボーグ

セニョリータ:宮嵜万央里
セニョール:浅田 良和
井上愛 宮嵜万央里

隅田有のシアターインキュベーター

井上バレエ団《バレエの潮流II ロマンティックからコンテンポラリーまで》

井上バレエ団がオーギュスト・ブルノンヴィルの『ラ・ヴェンタナ』、島地保武の『The Attachments』、石井竜一の『グラン・パ・マジャル』の3作からなる《バレエの潮流II ロマンティックからコンテンポラリーまで》を上演した。『ラ・ヴェンタナ』は2018年にその一部が披露されているが、全編は本邦初演。コロナ禍にも関わらず、デンマーク王立バレエ団からフランク・アンダーソンとエヴァ・クロボーグが来日し指導にあたった。他の2作も新作とあり、意欲的なラインナップだ。3公演上演されたうち、19日12時からの回を報告する。

スペイン語で窓を意味する『ラ・ヴェンタナ』は、主演のカップルを宮嵜万央里と浅田良和が務めた(ダブルキャストは阿部 碧と檜山和久)。

井上バレエ団のメソッドは手の使い方に伝統があり、人差し指を他の指と揃えるダンサーが多い中、宮嵜は珍しく人差し指を他の指と独立させて使う。キャラクター・ダンスの要素の強い本作では、宮嵜のメリハリの効いた手と腕の使い方が効果を上げていた。パートナーの浅田は、弾むようなジャンプと愛嬌のある仕草に加え、後半はキャラクテールの才能も発揮して、情熱的なステップで舞台を盛り上げた。

本作ではヒロインが鏡に向かって踊るシーンが見どころの一つだ。実際には鏡の中にもう一人ダンサーを配し、二人のダンサーが息を合わせて踊るのだが、背中合わせの場面も多く、入念なリハーサルを要することが伺える。宮嵜と鏡の中の井上愛はピタリとタイミングを合わせ、観客の期待に応えた。他にパ・ド・トロワに井手口沙矢、松井 菫、川合十夢が出演した。

宮嵜 万央里&浅田 良和

「The Attachments」
振付 / 島地 保武
曲 / ハイドン、ラヴェル

酒井 はな&島地 保武
『The Attachments』は島地と酒井はなのパ・ド・ドゥで始まる。このパ・ド・ドゥは昨年亡くなった批評家山野博大氏と長谷川六氏の追悼公演のために作られたもので、同じフレーズを3度繰り返す。1度目は酒井の全身全霊の踊りに圧倒されるが、2度目で島地の存在感が増し、3度目で二人の間にハーモニーが生まれる。作品に使用されている叙情的な『亡き女王のためのパヴァーヌ』は、ダンスの曲としては主張が強すぎるきらいがあるが、本作ではそれも杞憂だ。メロディを凌駕する十分な量のムーヴメントと、ベテラン二人の存在感のおかげで、最初から最後まで振付が表現の主導権を握っていた。
パ・ド・ドゥの後は場面転換し、10名の井上バレエ団のダンサーが、ハイドンや女性ボーカルのブルースで踊る。二つの独立した作品を一つに繋げたという印象は否めないが、井上バレエ団によるパートも熱量が高く見応えがあった。特に終盤、ボディ・ファンデーション姿で登場した荒井成也には独特の色気があり、クセのあるキャラクターを確立させていた。
荒井成也
「グラン・パ・マジャル」
振付 / 石井 竜一
曲 / グラズノフ
ラストは井上バレエ団で次々に新作を発表している石井竜一の『グラン・パ・マジャル』。グラズノフの『ライモンダ』の曲を使ったシンフォニック・バレエだ。プリンシパルの男女を芯に、ソリストの男女4名、6名の男性、そしてコール・ド・バレエの、総勢36名が出演する豪華な作品である。テクニックの見せ場と、群舞の迫力がバランスよく配され、公演の最後を飾るのにふさわしい作品であった。
カウントの最後で進む方向が変わったり、音の一つ手前で次のステップのプレパレーションに入ったりと、様々な工夫が音楽と踊りの関係性を豊かなものにしていた。バレエ団の重要なレパートリーとして、今後も再演されてゆくことが期待される。プリンシパルに根岸莉那と荒井成也、ソリストに藤井ゆりえ、西沢真衣、田辺 淳、川合十夢が出演。なおダブルキャストではプリンシパルに阿部 碧と浅田良和、ソリストに中堀菜穂子、井上 愛、田辺 淳、川合十夢が配されていた。
荒井 成也& 根岸 莉那
井上バレエ団の公演会場の定番であった文京シビックホールは休館中で、今回初めて東京芸術劇場プレイハウスでの開催となった。オーケストラピットを挟んでも舞台と客席は近く、臨場感はかつてないほどであった。長い伝統を受け継ぐブルノンヴィル作品、シンフォニック・バレエ、そしてコンテンポラリー・ダンスという、幅広いジャンルのプログラムを通じて、バレエ団の強みだけでなく、出演者それぞれの個性も感じることができる、充実した公演であった。

2022年6月19日 12:00 東京芸術劇場プレイハウス所見

舞踊批評家 すみだ・ゆう

藤井 ゆりえ、西沢 真衣、田辺 淳、川合 十夢
スタッフ

バレエミストレス(The Attachments) 酒井はな
バレエミストレス(ラ・ヴェンタナ、マジャル) 鈴木 麻子
バレエマスター(ラ・ヴェンタナ) 石井 竜一
美術 大沢 佐智子
照明 立川 直也(満平舎)
音響 貫井 政仁
音楽監督 冨田 実里
舞台監督 相馬 勝己

指揮 井田 勝大
演奏 ロイヤルチェンバーオーケストラ

公演監督 岡本 佳津子
制作 公益財団法人 井上バレエ団