ダンス・マルシェ「星の王子さま」
22.4.27&28 スクエア荏原 ひらつかホール |
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星の王子さま:二山治雄
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ダンスの市場 2010年よりダンスカンパニー、ダンス・マルシェを主宰する池上直子。マルシェとは、フランス語で市場を意味するから、ダンスの市場とでもいえばいいのだろうか。いろいろなものが集まった集合体というイメージでいえば、それにふさわしい舞台である。ちなみに、シュペルマルシェというとスーパーマーケットだ。また、池上直子は、これまでに米沢唯、飯島望未、木村優里などの優れたダンサーを振り付けて、数多くの舞台を生み出してきた。 そして、ダンス・マルシェの舞台は、それが単にさまざまなアーティストが集まったというだけではなく、音楽と美術とダンスが一体化しており、そのなかで、時には音楽が、時にはダンス、時には美術というように、注目する部分が変化していく魅力的なものだ。 |
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大上のの 冨岡瑞希 小泉朱音 児玉彩愛 弘田アンリ 東百音
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『星の王子さま』(1943年)はサン・テクジュペリの有名な童話の絵本。童話を題材にするというのは、演劇ではあっても、ダンスでは珍しいだろう。そして、この物語では、中心となる登場人物は王子と飛行士である。演劇などでは数々上演されてきたが、ダンスに合うのか少々疑問だった。だが、舞台を見て、二山治雄が、『星の王子さま』にピッタリだったため、この疑問は払拭された。 二山は、バレエファンのみならず舞踊ファンはだれでも知っている、天才ダンサーである。2014年、高校生のときに、ローザンヌ国際バレエコンクールで、熊川哲也以来のトップをとり、注目された。その後、数多くのバレエ団やフェスティバルで客演を続けている。二山の踊りは、横浜バレエフェスティバル、NBAバレエ団公演などでたびたび見ており、そのたびに、圧倒的なスキル、テクニックには目を見張ったものだ。 |
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星の王子さまとサンテックス 『星の王子さま』というと、どんな話だったのだろうか。 サハラ砂漠に不時着した飛行士が、小さな星の王子と出会う。星は家ほどの大きさで、3つの火山とバオバブの芽と、1輪のバラの花だけ。王子は、バラの花とけんかして、他の星へ旅に出た。そこで出会ったのは、王、うぬぼれ男、のんべえ、夜空の星の所有権を主張するビジネスマン、点灯夫、地理学者など。地球は7番目で、王子はヘビ、高い火山、数千本のバラに出会い、自分の星はつまらないのかと泣く。キツネが現れて、「仲よくならないと遊べない」という。それは、何かを特別だと考えること。これを聞いて、自分のバラは一番だと悟り、別れるときに、王子はキツネと仲よくなっていたことに気づく。別れで悲しませるなら仲よくならなければよかったと思う王子に、「麦畑を見て王子の金髪を思い出せるなら、ムダじゃない」とキツネ。そして、「大切なものは目に見えない」と教えられる。 飛行士は、水が尽きて井戸を探す王子についていき、砂漠の中で井戸を発見する。翌日、奇跡的に飛行機が直る。王子は、1年前と星の配置が同じときに、砂漠でヘビに噛まれると、自分の星に帰れるのだ。悲しむ飛行士に、「夜空の星のどれかでぼくが笑っていると想像すれば、星みんな笑っているように見える」といい、王子はヘビに噛まれて砂漠で倒れ、翌日、身体は跡形もなくなっていた。こんな話だ。 |
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著者のサン・テクジュペリ(1900〜1944年)はパイロット、つまり飛行士でもあった。フランスではサン・テクジュペリのことを、「サンテックス」といっている。ここではこの略称を使わせていただく。 サンテックス自身、飛行経験も豊かで、1935年には、この物語同様、サハラ砂漠に不時着した経験がある。そのときは、徒歩でカイロまでたどり着いたという。さらに、ナチスドイツが侵攻した第二次大戦のときには、米国に亡命して、自由フランス空軍で飛行士として戦ったが、1944年7月31日に、コルシカ島から出撃して消息を絶ったという。そしてマルセイユ沖で彼の飛行機が発見されたのは、なんと2000年になってからだった。 |
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黒子:小泉朱音
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パイロット:宝満直也
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魅力ある出演者たち 今回、ひらつかホールは初めての劇場。東急目黒線の武蔵小山駅と東急池上線戸越銀座駅の間に位置する。どうして「ひらつか」なのかというと、交差点に「平塚橋」とあった。つまり、ここにかつて品川用水が流れており、橋があったのだ。そして「荏原」というのがこのあたりの地名であり、ひらつかホールもスクエア荏原という品川区の建物にある。362席の新しいホールで、観客席の傾斜もしっかりついており、非常に見やすい。 舞台では、上手と下手の端に足場が組まれて、その上で音楽家たちが演奏する。舞台を広く使うための工夫だろう。音楽家たちは、作曲やサックス、音楽監督をつとめる小倉大志に、アコーディオンの青木まさひろ、ヴァイオリンの廣田碧、チェロの三谷野絵、コントラバスとエレキベースの長谷川慧人、パーカッションの赤瀬楓雅。舞台美術は長谷川匠。アコーディオンとヴァイオリン、カホンが入っているために、タンゴバンドに近い構成だが、音楽は多様だ。ヴァイオリンとチェロは芸大卒のクラシック出身で、他の音楽家も、海外でも活動するなどの実力派揃い。小倉大志の作曲が巧みで、アイルランドや中東音楽などの要素も入り、また効果音的な部分など、舞踊とうまく重なる。 この舞台で、ダンサーとして次に注目すべきは、宝満直也である。新国立劇場出身で、クラシックバレエダンサーだが、ダンステクニックも振付力もあり、個性的だ。能の津村禮次郎、酒井はなと共演したときに着目した。その後、NBAバレエ団に移籍し、『ドラキュラ』『狼男』『海賊』などで出演や振付を行って、今後の展開を期待していたが、NBAを離れてフリーになった。 そして、他のダンサーたちは、カンパニーメンバーの大上のの、冨岡瑞希、小泉朱音、児玉彩愛に加えて、弘田アンリ、東百音の女性6人だ。 |
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宝満直也&二山治雄
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二山と星の王子さま 舞台は三幕構成。一幕は「王さまの星」「戦争」「不時着」「出会い」である。 今回、二山治雄が舞台に登場したときには、思わず、心の中で「おー」と歓声をあげた。というのは、まさに「星の王子さま」にぴったりだったからだ。二山は小柄で少年の雰囲気を残している。そして踊り出すと、実に体が自在かつ柔軟である。男性ダンサーには珍しい、片足を頭まで上げる動きも難なくこなし、そのうえジャンプも、両足がしっかり上がっているために非常に高く見え、滞空時間も長く感じられる。バレエダンサーとしてのハイテクニック、ハイスペックがぎっしり詰まっているのだ。 |
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二山治雄&宝満直也
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冒頭、王子の登場したあとに、「戦争」の場面で黒い衣装で女性たちが群舞を踊るのだが、ここはあまり入り込めなかった。というのは、黒い幕のホリゾントに黒い長いマントで体を隠しており、身体があまり感じられなかったからだ。戦争という「闇」「悪」を象徴しているとすれば、ここは暗い色でも茶系の襤褸(ぼろ)みたいな衣装でもよかった。 |
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王子さまの分身:大上のの 冨岡瑞希 弘田アンリ
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だが、三人の女性ダンサーが同じ白い少年的な衣装で登場したときに、「おお、星の王子さまが増殖した」と思った。彼女たちは王子の分身なのだろう。そして三人も二山に負けじと難しいテクニックに挑戦し、見応えのある分身カルテットを生み出した。 「不時着」の場面で登場したもう一人のゲスト、宝満直也は、飛行帽をかぶっているため、すぐパイロットだとわかる。つまり、宝満は著者サンテックスの分身であり、主人公の王子も分身であれば、実は王子=飛行士、どちらもサンテックスなのだ。以降も含めて、特に二山と宝満の絡む場面は、とても見応えがある。安定したテクニックに加えて、二人の瞬間の判断から次々と踊りが展開していくように見えて、刺激的だ。 |
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二幕は「星めぐり」「ヘビ」「バラ園」「キツネとの絆」。 三人の女性による「ヘビ」はかなりよかった。それぞれがヘビの動きから、王子と絡むのだが、絡み方も含めて、リアルな身体感覚を感じた。これによって、女性ダンサーたちもしっかりとした技術を持っていることがわかる。それは、「キツネ」も同様だ。 三幕は「トゲの話」「井戸探し〜奇跡の井戸」「パイロット」、そして「死」と「星積み」で終わる。 『星の王子さま』で有名な「絵」の場面は、絵本らしく、子どもが楽しめる設定だ。そして、有名なゾウを飲み込んだヘビの絵も登場する。また、舞台美術は、分割された球体が生かされ、月を連想させていたものが最後には地球となるなど、シンプルな演出で、とてもよかった。 |
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ヘビ:東百音 小泉朱音 児玉彩愛
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キツネ:児玉彩愛
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また、できればバオバブの木も登場してほしかった。アフリカなどに生息する巨木で、名前も奇妙でありフォルムも独特の木だ。バオバブを知ったのは、おそらく多くの人が、この『星の王子さま』だからだ。簡単な書き割りでバオバブがあると、よりイメージする「星の王子さま」らしくなったように思う。「星の王子さま」では、あのゾウを飲んだヘビの姿とバオバブが特に印象的だからだ。 |
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とはいえ、初めてこの舞台で『星の王子さま』を見る観客にとっては、それは重要ではない。この不思議な物語にふれて、小さなSFともいえる世界、そして「星の王子さま」の抱く人間の孤独、さらに、人との触れあいの意味などを感じられればいい。子どもたちは、夜空の星を見上げて、星の王子さまを連想するかもしれない。さらに、ダンス作品として、何よりもダンスの魅力が伝わるということが重要だろう。その点で、二山治雄と宝満直也というゲスト、そして女性ダンサーたちの踊りは、十二分にそれを果たしていたといえる。 この作品によって、ダンス初体験の観客もぜひ、この二人の名前を覚えて、さらに舞台にふれてほしいと思う。池上直子の『星の王子さま』は、ダンスがジャンルを越えて楽しめる時代への一石を投じたといえる。ダンス・マルシェ主宰の池上には、さらに新たなテーマで楽しめるダンスの創作に挑んでほしい。二山治雄、宝満直也にもさらなる活躍を期待したい。 22.4.28 スクエア荏原 ひらつかホール所見 舞踊批評家:しが のぶお |
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Saxophone,Composition 小倉大志
Accordéon 青木まさひろ Violin 廣田碧 Cello 三谷野絵 Bass 長谷川慧人 Percussion 赤瀬楓雅 |
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