旗揚げダンスパフォーマンス
Piece of modern「ハジメの大闊歩!!」 2007.6.2 プラザソル |
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前沢亜衣子は優れた作品を打ち出してきている若手作家の一人だ。コンクールでは乾直樹とともにデュエットを踊ることも多く注目されているダンサーでもある。
「ハジメの大闊歩」とは文字通りグループの最初の公演としての初めの大きな一歩を意味しているのだが、「歩くこと」や「足」や足の裏などから生まれてくるイメージとイメージの展開を朗らかにまとめた作品だ。前沢はシリアスな作品を描くことも出来るのだか、超現実的な世界やこの作品のようにコミカルなシーンもまた得意とする作家だ。グループとしての最初の公演ともあり気負うこともなく大きな一歩を明るく踏み出したようだ。 |
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ミュージシャンたちが明るい響きを奏でる中、踊り手たちが一列に壁際にならんだりするなどごく自然の展開から作品がはじまる。やがて彼ら彼女たちは幻想世界での出来事を描き始める。舞台いっぱい布が広がると、この布の一部とスカートのように腰からつながってる前沢と男たちは、「歩く」ということやそこから生まれてくる感情やイメージの展開を描き出していく。やがて小林藤子、森田玲奈、そして福島千賀子といった女たちが登場する。中でも小林は豊かな感情表現が定評のある若手の一人だ。彼女たちはがっしりと下肢を踏みしめながら上体を軽やかに、スピーディーに回転し、身を宙に走らせていく。この公演で活躍する男性舞踊手たち、例えば秋月淳司や乾はいずれも素朴な味わいもある面々だ。一方、現実の世界では21世紀初頭という豊かな時代を生きる彼女たち、生きた素材から前沢亜衣子は現代女性らしい繊細で透明感あふれるトーンをつかんだようだ。 | |||||||||||||||||||||||||||||
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森田玲奈/小林藤子/福島千賀子
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さらに舞台の上には巨大なプレゼントが登場。この目をひくボックスをめぐってダンサーたちのゲームがはじまる。「だるまさんがころんだ」に近いルールで踊り手たちはこの箱に触れようと近づいていく。ゲームを楽しみながら自由に表情豊かに演技をする秋月の表情にはより感性が滲みでてきた。山岡周平と西川卓もまた若い男性らしいユーモアと悪戯好きの姿をみせる。そんな彼らの姿に客席から笑い声が上がる。楽しいゲームが終わると、プレゼントの包装の中からは砂時計が登場する。砂時計が時の流れを刻みだし、バンドが大きく演奏を始めると、小林洋壱や乾が大きくダイナミックに動いていく。小林は東京シティ・バレエ団でも活躍するバレエダンサーだが、この作品ではクラシックダンサーらしい身体表現ではなく、明るい表情を活かしながら、大きく伸びやかに踊る。場面と場面の間に物語のような強い連続性を与えていくという手法ではなく、「歩く」ということや「足」自体から生まれるイメージの展開、いわばイメージの連鎖的なつながり、をライヴアート特有の充実した演技や演奏の醍醐味と共に明るいタッチでまとめている。それぞれの場面に登場する明るさやユーモアがシーンとシーンをつなげ語っていく。作家として前沢が大きな一歩を刻んだということもあるのか、そのことを祝うように明るく締め括られた。 | |||||||||||||||||||||||||||||
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演奏/ アツキイズム
藤森暖生(G)・今野篤(V)・亀崎拓史(Per)・斉藤英彦(Key)・植村健介(B) |
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近年、前沢と乾は「空惚けの瘡蓋」、「燥ぐ脈-白濁の誘い-」といった秀作をコンクールで発表し、注目を浴びている。前沢は子どもの頃からダンスを学び、乾は学生時代に本格的にダンス向き合うようになった。ルドルフ・ラバン、マリー・ヴィグマンといったドイツ系の現代舞踊の影響を色濃く反映するムーブメントや2000年代前半の作風を大きく突き抜けた彼らによる現代ダンスともいいえる緊張感あふれる動きの質感から男女の深層へと迫っていく作品は見ていてスリリングで実に心地よい。 | |||||||||||||||||||||||||||||
山岡周平/西川卓/乾直樹
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秋月淳司 小林洋壱
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その一方で前沢たちは今年に入っても小林(洋)や秋月らと共にポップで明るいパフォーマンス的な作品を展開するような側面もある。特にコンクールで彼らが展開をしている現代の若者の感覚を良くつかんでいるムーブメントや構成は決して偶然の産物ではない。この公演をみることで作家はそれらをオリジナリティとして持っていることを確認することができた。例えば乾がリフトをすることで、宙で前沢がスピーディーに肢体を走らせていく場面はコンクールでの作品たちにも通じる表現だ。様々な取り組みから生まれてきた豊かな経験が活きた公演であるように思う。 | |||||||||||||||||||||||||||||
前澤亜衣子&小林洋壱&乾直樹
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前沢・乾の作品は、洗練された女性的な表現をする横田佳奈子、所夏海、荒木まなみ、女性らしい感受性と精神世界に迫る鈴木麻依子といった踊り手たちとほぼ同世代にあたる。近年確立しつつある彼らの独特の斬新な質感は21世紀初頭を生きる現代の若者の感情や世界を作品にする事が多い一連の若手作家の中でも極めて興味深いタッチであり、作家としての幅の広さや素材としての様々なキャストを通じて、今後どのように展開していくかということがとても気になるところだ。長くコンクールでつちかった実績もあり、これからの着実に活動を重ねることで打ち出されていく世界やその活動の方向性からは目が離せない。 6月2日ラゾーナ川崎 プラザソル ソワレ所見 舞踊批評家 よしだ ゆきひこ |
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