2011都民芸術フェスティバル参加公演
(社)日本バレエ協会
「ドン・キホーテ」全幕

2011.1.28 東京文化会館・大ホール

3of 3
JAPAN BALLET ASSOCIATION
「Don Quixote」

エスパーダ:今村 泰典
第2幕3場「バルセロナの酒場」では、バジルとエスパーダ、さらにキトリが加わって、丁々発止の競演を繰り広げるトロアが珍しい。酒井が大胆かつ細やかな踊りで、今村がバジルへのライバル心を燃やす演技で気を吐いた。
藤野 暢央/酒井 はな/今村 泰典
と、ロレンツォがマーシュとともに到着、娘を見つけてガマーシュとの結婚を命じる。遅れて姿を現したドン・キホーテの扱いに、いまいちど、なるほどと膝を打った。ドン・キホーテは、キトリを奪取すべく狂言自殺をはかるバジルの行動を注視しており、キトリとバジルの縁組みを成立させるべく、ロレンツォに強引に迫る。エリザリエフ版のキホーテ公は夢こそ見ても、現実を見失った夢想家ではない、という想定なのだ。父親の同意を得て喜びにふけるキトリが、しょげていたガマーシュを踊りの輪に招じ入れる仕草も、彼女の優しさの現れとして効果的。ガマーシュの失意が払拭され、舞台がいっそうの明るさを得たようだった。
第3幕も、異例の演出で幕を上げた。バルセロナの街の広場に戻ってキトリとバジルだけでなく、エスパーダとメルセデスの結婚を祝う祝宴が繰り広げられる。舞台後方の岸壁にそびえていたのは、あるはずのない風車、参列者のなかには混じっていたのは、いるはずのない森の女王。眼前の光景が、やはり現実ではなく、ドン・キホーテの夢であることを示唆するものとして興味深い。

終盤のクライマックス、キトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥでは、酒井がいま一度、本領を発揮した。アダージォではバジル=藤野のサポートのタイミングが合わなかったのか、バランスを乱すことがあったとはいえ、バリエーションを緩急自在に踊りこなし、コーダの<グラン・フェテ>を余裕たっぷりに回り、<ピケ・ターン>のスピード感も抜群。フィナーレに相応しい高揚感をもたらした。

全員が乱舞する幕切れの大団円の中心にいるのは、意外なことに、ロレンツォやガマーシュに担ぎ上げられたドン・キホーテ。彼は旅立つことなく、キトリとバジルの幸せな姿を見守っているのだ。すべてを夢として描いた改訂演出ゆえ、違和感を生じなかったことに、またもや、なるほど、と頷いた次第。
ヴァリエーション1:平尾 麻実
余談だが、カーテンコールに現れたエリザリエフ氏本人は、ドン・キホーテと張り合ったり、ガマーシュと見合ったり、なかなかの芸達者ぶり。舞台を大いに盛り上げた脇役や元気な群舞ダンサー達の、良き手本になったに違いない。これが当夜最後の、なるほど、となった。

1月28日、東京文化会館所見

舞踊批評家うえの ふさこ

藤野 暢央
ヴァリエーション2:佐藤 友香
今村 泰典&田中 ルリ
酒井 はな&藤野 暢央
STAFF

原曲作曲/レオン・ミンクス
原振付/マリウス・プティパ
再改訂振付・演出/ワレンチン・エリザリエフ
振付補佐/タチアナ・シュメトヴェツ
バレエ・マスター/アレクサンドル・ブーベル
バレエ・ミストレス/渡部美季

芸術監督/薄井憲二

指揮/福田一雄
演奏/シアター オーケストラ トーキョー

装置協力/法村友井バレエ団
装置美術/浦野千香恵

衣裳協力
緒方規矩子、法村友井バレエ団、谷桃子バレエ団
照明/足立 恒
舞台監督/森岡 肇

制作担当/高田止戈
制作補佐/漆原宏樹、岸辺光代、篠原聖一
マネージメント/インターミューズ・トーキョウ
著作・制作/特例社団法人日本バレエ協会

福田 一雄氏& ワレンチン・エリザリエフ氏