ラ ダンス コントラステ 「真夏の夜の幻」

08.11.7 吉祥寺シアター

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LA DANSE CONTRASTEE


ハーミア:依田久美子/ライサンダー :武石光嗣/デメトリアス:増田真也/ヘレナ :山口智子

志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

「ビッグネームとコントラスト」
 佐藤宏の主宰するラ ダンス コントラステの舞台を見るのは初めてである。佐藤が構成・演出・振付したこの舞台は、「真夏の夜の幻(ゆめ)」というタイトルが示すように、シェークスピアの『夏の夜の夢』を下敷きにしたものだ。パンフレットに佐藤が書くように、そのなかから「バレエに変換しやすい幻想的な部分を主に抜き出し脚色した作品」である。そういう背景があり、かつパンフレットには、惚れ薬によって恋愛関係が変わるという人間相関図があるので、観客には物語がわかりやすい。

 舞台正面四面、縦長の白い障子のようなものが吊るされ、そこに人の影が写り、この白いスクリーンが人の出入りには扉のように使われる。その一面一面が幕のように、時には背景に使われる。さらにその奥にも同じスクリーンが見える。この道具使いはなかなか巧みで、冒頭のシルエットを使った登場や、ダンサーが去る場面では開き閉じる揺れる扉として、なかなか有効だった。しかし次第にそのパターンに、少々飽きてしまうところもある。照明などで違う見せ方をすれば、違ったかもしれない。
タイターニア:酒井はな& オーベロン:西島千博
 物語は、ハーミアを演じる森田真希、ヘレナを演じる伊藤さよ子という二人の女性と、ライサンダーを演じる武石光嗣、デメトリアスを演じる増田真也という二組の男女が中心になる。森田と武石のカップルに増田がちょっかいを出すが、「惚れ薬」によって心変わりし、武田、増田ともに伊藤に惚れていき、森田が取り残されるという展開だ。その元凶が竹内春美、澤井貴美子の二人のパック。この悪戯好きの妖精が、惚れ薬で恋愛関係を交錯させる。それは妖精の王オーベロンの西島千博と女王タイターニアの酒井はなという関係に対しても同じで、惚れ薬によって、酒井は石井竜一のロバ、ボトムに惚れてしまう。こう書けばだいたい物語は見える。花を使って魔法をかけることで、恋愛関係が変わって生じるドタバタがこの物語の魅力だ。

写真取材は11/8のマチネ

西島千博
酒井はな
 まず、妖精パックを演じる二人は楽しく、竹内春美、澤井貴美子という二人のコントラストもよく出ている。時には左右対照に位置して舞台構造を仕切る。何度か笑いもとって、パックらしさがでているが、少々無難に収まった感じ。もう少し遊びが増えると、パックもさらに面白くなる。ただ遊びすぎると、エンターテイメントという感じになって、物語がはっきしたダンスの「遊び」のバランスは難しい。

 物語の中心となる二組の男女、カップルは交錯するので、まず男性陣についていえば、長身で黒い衣装の増田真也はかなりインパクトがある。繊細な感性で抑えたなかでダイナミックに踊るところは、かなり魅力的だった。ちょっとした跳躍やアラベスクなどに長身を生かし、その登場が楽しめた。武石光嗣は東京バレエ団出身で、佐多達江の舞台などで何度か見た記憶がある優れたダンサーだが、今回は、さわやかな若者を演じるという好感をもった。

依田久美子&武石光嗣
パック:岩沢 彩 堀内麻未子
 女性陣で、物語のなかでは惚れ薬によって振られることになる森田真希は、動きがちょっと荒く、例えば着地の足音が気になる。小さめの伊藤さよ子と比べてはかわいそうなのだが、伊藤が軽やかなのに対して、少し大味な印象だが、コントラストとしてはいいのかもしれない。伊藤さよ子はかなり面白い。まず、ずっと不機嫌なような表情が舞台にアクセントを与えている。そして、小柄なわりに手が長く、動くと舞台映えもする。その動きはコケティッシュというか、あるいはホフマンの人形、コッペリアのような感じとでもいおうか。表情としぐさが、人目を惹き何か気になる感じだ。また、ロバ、ボトムを演じた石井竜一も光る一瞬を見せ、好演だった。
ボトム:石井竜一
石井竜一
 そしてゲストの酒井はなと西島千博。酒井は周知のように、牧阿佐美バレヱ団から新国立バレエで活躍。西島千博はスターダンサーズ・バレエ団で活躍。宮藤官九郎のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』に出演したことで、広く一般の人にも知られるようになった。宮藤ファンとしても、「悪」のトップ役がとても面白かった。酒井と西島はたびたび共演しており、以前、愛知芸術劇場で共演する舞台を見た記憶がある。
 他のダンサーほとんどが白と黒の衣装、黒い舞台に白い背景を使ったなかに、抑えてはいるが色のある衣装。特に西島の長い衣装は目立つ。そこからのぞく片足、太股が踊りと同様にダイナミックさを示す。酒井も動きの端々に段違いのテクニックを見せる。これだけのビッグネームが登場したことで、舞台は華やいだ。そしておそらく観客は、酒井、西島という二人のバレエ、ダンス・テクニックが十分に披露される一瞬を、やはり待ち望んでいたはずだ。振付の佐藤宏は全体のバランスを優先し、ダンサーそれぞれに見せ所を与えようとした。それは確かに大切なことだ。しかしそのため、ゲストに見せ場があまりなかったような印象を持つ。場面としても、西島はかなり登場したが、酒井の登場は少ないかもしれない。
酒井はな& 石井竜一
武石光嗣/依田久美子/山口智子/増田真也
デメトリアス:増田真也
 日本のバレエ団は、よく英米仏露からゲストバレリーナ、ダンサーを招聘してメインに据える。踊り手は当然、その技術と魅力を振りまいて帰り、ファンが増える。ゲスト頼みということは、バレエ団としてはプラスもマイナスもあるだろう。だが、観客にとっては、よりハイレベルな舞台が見られてありがたい。今回この2人に対して、観客はそういう印象を持つかどうか。バレエは元々振付があり、その役のバランスが決まったレパートリー作品とオリジナル作品という違いは、もちろんあるだろう。しかし、オリジナル作品だからこそ、この二人をもっと生かしていいのではないか。

 もっとも上に述べたように、そのために佐藤宏の演出・振付は、若手の魅力を引き出すことができた。このコントラストとバランスはやはり難しいところだろう。このような組み合わせに挑戦することは、カンパニーの活性化につながる。困難さはあるだろうが、大いに挑戦してほしい。

2008.11.7 吉祥寺シアター所見

舞踊批評家 しが のぶお

西島千博 /酒井はな& 石井竜一
STAFF
舞台監督:八木清市
照明:辻井太郎
音響:島村孝
衣裳:宮本尚子