森優貴「Macbeth マクベス」
2017.8.30 渋谷区文化総合センター 大和田伝承ホール

2of 2
Yuki Mori
「Macbeth」

2幕は玉座に寄り添う二人、上着が白の宮廷衣裳風に変わって始まります。至福の時間はあっという間に終わりました。王座に座ってからとそれ以前では面相が違っています。玉座に立ち上がって見下ろした外界、そこにはいったい何が見えたのでしょう。権力者の不安とでも言えばよいのか、部下への猜疑心まで感じたのは白目のせいだけではありません。
カメラマンとして対峙した「マクベス」、シェイクスピアの原作では大仰なセリフがあっただろう場面、2幕では大げさなアクションのカットを選択肢から外しました。感情が見える瞬間がこの作品の本質だと解釈したからです。さらに重心を敢えて外すオフバランスに、より人間の弱さを感じたのですが考えすぎでしょうか。

二人の視線が交差することが少なくなり、それぞれ違う方向を見つめだすのもこの頃からです。レディマクベスの顔をおさえて同方向を見せようとした瞬間さえあります。1幕冒頭の抱き合いながらもつれながら踊りよりも、半狂乱の状態で離れながら踊るシーンに情愛がより伝わってくるのは不思議でした。

レディマクベスは半狂乱になって初めて弱さをみせました。それを可愛らしく愛らしいと感じるのは、不思議です。加えて、それまで無かった笑顔が、彼女に浮かんだのは2幕終盤です。すでに違う世界にいる彼女は心の平穏を取り戻しまるで少女のように“ふる舞い”ます。ラスト直前二人の視線が交差し、走り寄ろうとする場面があります。当然のようにすれ違うのですが「ジゼル」狂乱場面のジゼルとアルブレヒトと重ねて見てしまいました。
息が絶えたレディマクベスを引きずって玉座に一歩、また一歩と歩み寄るマクベス、二人が手に入れたものはそして失ったものは何だったのでしょう。レディマクベスの手を取って歩むマクベスの背中に森優貴の孤独が重なりました。彼がマクベスを踊ったのではなく、マクベスが現代に蘇ったのです。

写真・文 鈴木紳司

スタッフ全員の集合写真をFaceBookから借用しました。見てください。この誇らしい笑顔!
STAFF
照明/柳原常夫、加藤美奈子
美術/小林新也、古谷良太、住吉幸ニ
舞台監督/斉藤尚美
音響/田島誠治
衣装/レーベンスブルク歌劇場
ヘア/北原義紀
メイク/石田弥山
プロデューサー/福原秀己
主催/ダンスマルシェ