谷桃子バレエ団 創作バレエ・12「古典と創作」

08.10.23 めぐろパーシモンホール

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Tani Momoko Ballet


「眠れる森の美女」より第3幕
原振付:M.プティパ
再振付:鈴木和子
バレエミストレス:前田藤絵
宝石の踊り:林麻衣子、三浦梢、須藤悠

Photographer's Eye

親しかった人との別れほど辛いものはありませんが、逆に何年も会えなっかた人との再会は嬉しくてたまりません。樫野隆幸さんが谷バレエ団に復帰し、再び 15年ぶりの舞台に立ちました。高部尚子さんとのゴールデンコンビは忘れがたく、戻ってきてくれただけで感謝したい心境になるのは不思議です。
バレエの華やかな場面だけを集めたような「眠れる森の美女」第3幕は私も大好きな演目です。ストーリーには何の脈絡もなく「お祝いだから......。」と駆けつけたペロー童話の主人公たちが結婚式を盛り上げます。驚いたことに「眠れる森の美女」は谷桃子バレエ団初めての上演とのこと、主役だけではなくすべてのディベルティスマンをダブルキャストで配役できるのはこのバレエ団の充実ぶりを示しています。公演初日なのに批評家諸氏の姿が少ないのはそのせいなのでしょう。誰もが「どちらの日に行こうか?」と迷ったに違いありません。
白い猫と長靴をはいた猫:相澤美和&川口裕也
青い鳥とフロリナ王女:伊藤さよ子&中武啓吾
赤ずきんと狼:小島恵美子&敖 強
シンデレラと王子:松村優子&川島春生
今回再振付にあたったのは 鈴木和子さん(バレエミストレス:前田藤絵さん)でした。英国ロイヤル版を基としたとのことですが、とても楽しく美しい仕上がりでメルヘンチックな魅力に満ちていました。

結婚後、何年か経って 王子が「そういえば出会った時の姫の衣装はどことなくお婆さまの服に似ていた」と思い起こしたそうです。100年の眠りを経て出会ったのですから不思議はないのですが、そんなほほえましい逸話を思い出させてくれました。

今井智也& 佐々木和葉
ところが第3幕だけ を観たことで、逆に全幕への期待が膨れあがりました。
幻想的なプロローグをどう描くのか、カラボスを誰が演じるのか、緊張感あふれるローズ・アダージオ等、近い将来上演されるであろう“全幕”への楽しみは尽きません。
オーロラ姫: 佐々木和葉
デジレ王子: 今井智也
フロレスタン王:内藤博&王妃:尾本安代
カタラビュット:樫野隆幸
「タンゴジブル」
振付:日原永美子
演奏:キンテート・オセイロ
日原永美子作品を処女作から体験している私は躊躇なく2Fからのの撮影ポジションを選択しました。
http://www.ballet.ne.jp/square/2tp2.html
大きなステージで20人以上出演する大作ですが、照明デザインの第一人者足立恒さんが さらに 日原さんの世界を広げてくれることを確信してたからです。
コモ? 樋口みのり/広瀬万弥子/岸田隆輔/長清智
左右対称ではなく表裏対照とでもいうべきか、鏡を見ながらレッスンしているような同時性を感じながらのスリリングな撮影でした。2人なら1人だけ、4人なら2人の顔しか見えないのですからカメラマン泣かせな曲なのです。
フラカナバ 瀬田統子/上島里江
男女3人のこの曲も、初めは同方向を向いて踊っていた2人の男性に女性が加わったとたん、一人が反対方向を向き踊り三角関係を暗示させます。彼・彼女たちの“内なる牢獄の壁”を打ち破らんとする葛藤です。テーマが古いと感じた方もいるかもしれませんが、これこそまさに“今”を歌っています。
アディオス・ノニーノ 依田久美子/下島功佐/三木雄馬
ミケランジェロ’70
ニョン 近藤久美子&岩上純
圧巻はプリマ3人の競演でした。それぞれ違う曲ですので競ったことにはならないのかもしれませんが、3女性を通して見えて来るものがあります。キンテート・オセイロの演奏が現代の人間模様を彷彿とさせるのですが、その曲に埋没するような3人ではありません。荒々しさと繊細さを併せ持つそれぞれの強い意志を感じたのです。
ブエノスアイレスの春 高部尚子
STAFF

芸術監督/谷 桃子
舞台監督/福島 章
照明/足立 恒
音響/矢野幸正
マネジメント/新演奏家協会

想いのとどく日 朝枝めぐみ
ブエノスアイレスの冬 齊藤拓&伊藤範子
古典の全幕だけがバレエではありません。様式美に浸りながら古典バレエを鑑賞する心地よさを充分に承知した上で言うのですが、100年後、200年後にバレエが生き残るためには今生きている現代人の心を掴まなければいけません。そのためにダンサーはもちろんバレエ団も見えない努力をしています。客席にいればこそそれを感じることが出来るのです。

ビデオや写真は表面を薄くなぞっているだけで核心から遠く離れているかもしれません。10年後、50年後に「この舞台観たんだよ。凄かった!」と言えるのは劇場へ足を運んだあなただけです。

写真・文 鈴木紳司