谷桃子バレエ団創立60周年記念公演3
「ジゼル」全2幕

2009.10.10 新国立劇場 中劇場

1of 2
Tani Momoko Ballet
「Giselle」

アルブレヒト:齊藤 拓
ジゼル:永橋あゆみ

山野博大の電脳バレエ横丁徘徊

 谷桃子バレエ団創立60周年記念公演の第3弾は『ジゼル』でした。谷桃子バレエ団が『ジゼル』を初めて上演したのは、今から52年前の1957年10月9日。もちろん、谷桃子さんがタイトルロールを踊りました。
 当時の『ジゼル』は、ペザント・パ・ド・ドゥがまだ無かったり、コール・ド・バレエの踊るところも今ほど複雑ではなくて、上演時間が今よりもずっと短かったのです。何か他の演目と同時に上演されることが普通でした。ちなみに谷桃子バレエ団が「ペザント…」を入れるようになったは、1970年の谷桃子バレエ生活30周年記念公演の『ジゼル』からです。
 まず今回の主な配役を紹介しておきます。
ジゼル 永橋あゆみ(10日)
緒方麻衣(11日昼)
佐々木和葉(11日夜)
アルブレヒト 齊藤拓(10日)
三木雄馬(11日昼)
今井智也(11日夜)
ヒラリオン 敖強(10日/11日夜)
近藤徹志(11日昼)
ミルタ 朝枝めぐみ(10日)
林麻衣子(11日昼)
樋口みのり(11日夜)

 私は10日の公演を見て、この批評を書いています。初演の舞台も見ているので、どうしてもその時と比べてどうだったかということが気になります。いろいろと細かい振付の改訂はあるのですが、大枠のところはまったく変わっていないので、びっくりしてしまいます。谷桃子バレエ団は『ジゼル』を上演しようと計画した時に、たっぷりと時間をかけて演出の検討を行いました。谷桃子、有馬五郎さん、内田道生さん、小林恭さんをはじめ、舞台美術の橋本潔さん、照明の岩崎令児さん、音楽監督の高田信一さんら、当時のバレエ団幹部たちが集まり、それまでに上演された各国の『ジゼル』の良いところ、悪いところを洗い出し、慎重に全体の流れを決めて行ったということです。そのために半世紀という時間が経った今になっても、大筋のところは元のままで通用するのでしょう。
バチルド姫:川瀬美和、クーランド大公:平田貴義
ヒラリオン:敖 強( AO Qiang)
 第1幕はジゼルが住む家の前の広場。アルブレヒトの従者、ウィルフリード(川島春生)が出てきます。あたりをうかがってからアルブレヒトに合図をして、登場をうながすという演出は、従者のつとめをきちんと果たしているわけで、なるほどとなっとくの行くところです。先にアルブレヒトが出て、その後からウィルフリードが息せき切って追いついてくるという演出のバージョンもありますが、私はオーソドックスな谷版のやり方が良いと思っています。
 そこから先の流れも、あまり目新しいことはなく、ストーリーがテンポよく進みます。ジゼルのお母さんのベルタ(大塚礼子、11日昼は日原永美子、11日夜は尾本安代)の演技は、52年前にナデジダ・パヴロバさんがやっていたものが今でも踏襲されています。そこのかつてはプリマだった人たちの姿があるのですから、時の経つのはほんとうに早いものです。
ペザント・パ・ド・ドゥ:三浦 梢&中武啓吾
 初演の舞台に出ていた人がたくさん見にきていました。初演の配役には、狩にやってきた貴族たちのお世話をする狩猟隊長という役がありました。それをやっていた黒田登さんと久しぶりにお目にかかりました。それから初演の時に谷桃子さんの相手役アルブレヒトを踊った内田道生さんの奥さんにお目にかかりました。残念なことに内田さんはもうお亡くなりになっているのです。奥さんは、ロビーに飾られた昔の舞台写真を感慨深げに眺めていらっしゃいました。初演の配役に出ていて、お亡くなりになったのは、他に、ベルタのナデジダさん、クーランド大公だった有馬五郎さん、ウィルフリードだった古沼斐佐雄さんです。
川瀬美和/永橋あゆみ/齊藤 拓
 永橋あゆみさんは、素朴だけれども美しい村の娘、ジゼルをたんたんと演じました。そうすることでアルブレヒトへのひたむきな愛が、ところどころでぱっときらめくように目立ったのです。狂乱シーンも、ほんとうに痛々しい感じがリアルに出ていて、涙を誘いました。

 齊藤拓さんのアルブレヒトは、演技がよく整理されていて、無理がありませんでした。死んだジゼルに取りすがろうとして母親のベルタに突き飛ばされてしまうところ、ヒラリオンに「お前のせいで、こんなことになったんだ」と詰問するところ、ウィルフリードにうながされて、泣く泣くその場を立ち去るところなど、気持ちを込めた演技が光りました。

 敖強さんのヒラリオンは、素朴な村の青年がとつぜん降ってわいた災難に翻弄され、思いがけない結果を招いてしまうところを的確に表現しました。ヒラリオンを「よい人」に描き、アルブレヒトの人間性に疑問符をつけてみようという演出もありますが、谷版ではことさらそういうところを強調することはしないで「ジゼルへの片思い」という考え方を貫いています。

 クーランド大公の平田貴義さん(11日は陳鳳景)の堂々たる貴族ぶりは、なかなかのものでした。谷版『ジゼル』のクーランドは、かつて有馬五郎さん、浅見捷二さんという名脇役が演じていたのですが、平田さんもその列に加えてよいのではないでしょうか。

ベルタ(ジゼルの母親):大塚礼子