篠原聖一バレエ・リサイタル
「ロミオとジュリエット」全2幕
2017.10.1  メルパルクホール

1of4
DANCE for Life 2017
Romeo and Juliet

「グラズノフ パ・ド・ドゥ」
(2001年初演)

演出・振付/篠原聖一
音楽/Alexander Glasunow
音楽構成/福田一雄


隅田有のシアター・インキュベーター

2001年に始まった《DANCE for Life》のシリーズが第十回を迎えた。記念すべき節目の公演として、第一回公演で上演された『グラズノフ・パ・ド・ドゥ』と『Out』、そして2003年に初演し、2006年の再演で文化庁芸術祭大賞を受賞した『ロミオとジュリエット』全幕が披露された。三作とも振付は篠原聖一。下村由理恵を筆頭に、出演者たちの名演が光る舞台だった。

幕開きは2001年初演の『グラズノフ・パ・ド・ドゥ』。マリウス・プティパの時代に花開いたグラン・パ・ド・ドゥ形式を、意図的に採用した作品だ。冒頭はカミテ後方から、男性がパートナーを導くように女性の手を取って登場する。まるでクラシック・バレエのミューズを、現代のステージに招き入れるようだ。バランスやリフトの多いきらびやかなアダジオに続き、男女のヴァリエーション、そして早いステップで次々と華やかなポーズを見せるコーダへと続く。

初演キャストは下村由理恵と森田健太郎。今回は下村由理恵バレエアンサンブルのメンバーで、新国立劇場でも活躍中の奥田花純と、国内各地の公演に引っ張りだこの浅田良和が務めた。女性ヴァリエーションは、最初に音を聞いてから素早くポアントに入るメリハリのある足さばきなど、篠原の振付のエッセンスがつまった一曲。奥田が軽やかに音に乗って踊った。浅田は高いテクニックで場を盛り上げたが、ときおりパとパのつなぎがあっさりと流れてしまう。古典を意識した振付だけに、若干の物足りなさを感じた。とは言うものの、基本を崩さない几帳面さが求められる本作と、ある種対極の役であるマキューシオを、同日の公演で演じる浅田は、実に器用である。

奥田花純&浅田良和
「Out」より
(1999年初演)
演出・振付/篠原聖一
音楽/Johann Sebastian Bach
荒井英之/檜山和久/高比良 洋
続く『Out』は1999年初演の作品。今回は抜粋が上演され、男性を加えた6名が出演した。暗い舞台の中央を四角くライトが照らし、3人の男性(荒井英之、高比良 洋、檜山和久)が同じムーヴメントを同時に踊る。上半身裸というシンプルな衣装の効果もあり、逆に3人の個性が浮かび上がるという仕組みが憎い。『グラズノフ・パ・ド・ドゥ』では古典の様式美を使うことでバレエの「型」を味方にしていたが、『Out』では同じムーヴメントを踊ることでフレームが作られ、ダンサーそれぞれの持ち味の違いが明確になった。女性3人(金子優、大長亜希子、平尾麻実)も同じ動きを踊ったり、時には手を繋いだりするが、ほとんど目を合わせない。
後半、一人ずつ入れ替わりでソロを踊る場面で、踊り手が交代する時に一瞬向かい合う。短いフレーズだが、他者の存在を確かめ合うような、切なさが感じられた。ラストは後方の幕の隙間を通り、一人ずつステージを去って行った。
平尾麻実/金子 優/大長亜希子
「ロミオとジュリエット」全2幕
(2003年初演)
2006年度文化庁芸術祭大賞受賞作品

演出・振付/篠原聖一
音楽/Sergei Prokofiev

運命:佐々木 大
15分の休憩を挟み『ロミオとジュリエット』全2幕が上演された。篠原版には戯曲の主要人物の他、「運命」という役名の不気味な男が登場する。短いナレーションの後に前奏曲が流れ、舞台後方に天秤を持った「運命」(佐々木大)、舞台前方の左右のスポットライトの中にロミオ(今井智也)とジュリエット(下村由理恵)が立つ。下村のジュリエットは、見上げるような視線や首をかしげる仕草に、十代はじめの少女のはにかみが溢れる。今井のロミオは若々しく、ウェーブのかかった前髪を揺らす姿に、恋多きロマンティストの風情がただよった。
モンタギュー夫人:鶴見未穂子/モンタギュー公:田名部正治/キャピュレット公:小原孝