札幌舞踊会Xmas公演「くるみ割り人形」全2幕
2014.12.7 ニトリ文化ホール

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SAPPORO BUYOKAI
「NUTCRACKER」

ドロッセルマイヤ:坂本登喜彦
フリッツ:田中美妃

「上野房子のダンス・ジャーナル」

 本文を起こす前に、速報性重視の〈東京ダンススクエア〉でありながら、執筆が遅れた事情について、ひと言、申し述べます。11月20日(木)に鈴木紳司編集長より執筆を依頼されました。あいにく当方の仕事が12月中旬までたて込んでいたため、原稿提出が12月15日以降、もしかすると翌週になるかもしれないと申し入れ、11月29日(月)に編集長より了解メールを受領。当方の怠慢による遅筆ではなく、編集長公認のスケジュールであることをお含みおき頂けましたら幸いです。

                            

 札幌舞踊会は、二つの『くるみ割り人形』をレパートリーに持っている。一つは、同団を長らく牽引している千田雅子代表の演出・振付によるもの。もう一つは、同会育ちの坂本登喜彦が手がけた新バージョン(筆者は2005年に札幌で鑑賞)。千田版はオーソドックスな演出と伝え聞いていたのだが、キュートでポップな坂本版同様、新鮮なアイディアと遊び心がたっぷり織り込まれた全2幕だった。

坂本登喜彦
 幕開き前、オーケストラが演奏する前奏曲とともに、主要キャラクターの機知に富んだ白黒写真がフロントカーテンに投影された。くるみ割り人形作りに精を出すドロッセルマイヤー(坂本登喜彦)は、さながら『コッペリア』の老人形職人コッペリウスのよう。スラリと格好よい、くるみ割り人形(西野隼人)。お菓子の国のノーブルな女王と王(郷 翠とジョゼフ・ヴァルガ)。 少々、気取ったネズミの王様(安村圭太)。少女クララを演じた小倉友梨香の、片脚を顔の真横に届くまで高々と上げた写真がお目見えすると、その見事なエクステンションに会場がざわめいた。

 例年、この場面では趣向を凝らした写真を用いるとのこと。慌ただしい師走の気分を振り落とし、観る者をファンタジーの世界に誘う、小粋な導入部である。

ハレーキン:平 史樹
コロンビーヌ:山本佳奈
クララ:小倉友梨香
 そしていよいよ、第1幕第1景、クリスマス・パーティが始まった。パーティに集った大人達がギャロップやメヌエットを踊り、ムーア人(酒匂麗)等、大人が扮した人形が闊達なソロを踊るけれども、パーティの主役は、あくまで実年齢の子供が扮した子供達。精一杯、着飾って、クリスマスプレゼントを受け取り、人形劇を見物する様子は、実に楽しそうだ。
ムーア人:酒匂 麗
 クララと弟フリッツ(田中美妃)の伯父で、二人の名付け親でもあるドロッセルマイヤーは、さながら、大人の世界と子供の世界を、さらには現実の世界と夢の世界を結びつける役どころ。今回は演技者に徹した坂本が、甘すぎず辛すぎず、頃合いの匙加減でダンディーかつ少しミステリアスな紳士を造形した。
小倉友梨香&田中美妃
 クララとフリッツに扮した小倉と田中がそうであるように、美しく鍛えられた年少者の活躍が光る。きちんと伸ばされた爪先や背筋。指先まで意識の行き届いたアームス。生来の子供らしさに甘んじるのではなく、トレーニングによって培われた愛らしさが心地よい。なかでも、クララを演じた小倉の、しなやかな身のこなしが目を引く。後述する雪の場面では、くるみ割り人形役の西野と組んで、主役顔負けのアダージオを踊った。大人でもない、かといって子供でもない、透明感のあるクララである。フリッツ役の田中は、少女ながら凛々しい踊りで、なかなかの美少年ぶり。小さな人形に扮した、北川琴菜、長瀬永実、三上紗羅のきりっとした立ち姿も立派だった。