project POINT BLANK
-What is contemporary ballet?
〜バレエの向かう先には?〜 


川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場
2010.7.23&24

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project POINT BLANK
What is contemporary ballet?

Fall-out
演出・振付・衣装/児玉北斗
(出演ダンサーとの共同による)
音楽/平本正宏
児玉北斗&草野洋介

志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

「若く先鋭的なコンテンポラリーバレエ」

 海外のバレエ団などで活躍してきたコンテンポラリーバレエの男3人と女性1人が振り付けるプロジェクト。
 この企画の中心になっている児玉北斗は、ヴァルナ国際バレエコンクール2位、そしてサンフランシスコ、カナダのバレエ団のソリストを経て、現在、スウェーデンのヨーテボリバレエに所属、キリヤン、オハッド・ナハリンなどの作品を踊り、自身でも振付作品がある。
 最初の上演作品は、その児玉北斗振付の『Fall-out』。上手手前に1人壁向きに立ち、5人が前に迫ってくる印象的な始まり。冒頭の音楽もインパクトがある。そしてすっと変わって、下手寄り奥に光。その光が動いてくると、頭に付けたヘッドライトであることがわかる。上手奥では3つの光。これはダンサーがそれぞれ手に持つ光。下手で踊る女性を照らすストロボライトも2人のダンサーが手で照らし、背景に映る影も美しい。また上手で女性2人が踊る姿は、それぞれが下に向けたヘッドライトで踊る姿も印象的。闇の中から浮かび上がる光が作りだす世界がとても効果的だ。ノイジーな平本正宏の音も情景に合っている。

 やがて中央に円形に光の中で草野洋介と児玉アリスのデュオ。草野はロッテルダム・スカピノバレエ、鳴海はカナダで活動している。強いていえば、円はもう一回り小さく、前の闇とのコントラストを残したほうがいいが、闇と光の技巧的な前半に対して、踊りと身体をシンプルに見せる。衣装も男2人は襟のあるシャツ、女性はノースリーブと素朴で、数人ずつの群舞などが展開していく。
 鳴海は小さくショートカットで動きが身軽で長身の草野とのコントラストがいい。そして鳴海と木田とのデュオなど、それぞれなかなか見せる。女性たちはスターダンサーズバレエ団出身の岡田理恵子、ローザンヌで賞をとりヨーテボリバレエに在籍する木田真理子、東京バレエワークスの児玉アリスである。ただ、男女ともに、それぞれの動き自体には癖がなくインパクトは弱いので、もう少し個性的な振りを与えたほうがいい。後半で5人がホリゾントに向こう向きで立ち、中央で草野が踊る。そして草野と鳴海が争うようなそぶりのダンス。やがて、草野が集団の列に加わり、鳴海が集団から阻害された形で、上手に追いやられていって、舞台が終わる。
鳴海令那&児玉北斗
 といっても、その争い阻害はさほど重いものではない。タイトルの「fall-out」は、おそらく「はみ出す」という意味で使われているのだろう。だが、その意味からいってもも、前半のヘッドライトや手持ちライトなどで構成する場面が非常に美しかったので、そこにもっと重点を置いて、後半にももっと陰影をつけて身体や舞台を隠しながら見せると、集団からの「はみ出し」の意味が際立ち、作品として重みが出たように思う。
左から 草野洋介、児玉北斗、児玉アリス、木田真理子、鳴海令那、岡田理恵子
Innocence
演出・振付・衣装/山田勇気
 次の上演作品は、山田勇気の『Innocence』。山田勇気は金森穣のNoismで注目していたダンサーの1人だ。ダンスを始めたのは19歳と遅く、清水フミヒトに師事した後、Noismに4年間在籍後、フリーになっており、カルメン・ワーナーや武道家日野晃の作品などに出演している。

 中央に上手寄りに黄色いコートの女性。外国語のような声が聞こえ、やがて聞き覚えのあるピアノ伴奏。『アヴェマリア』だ。しかしメロディが流れると、不安定な歪んだ音。テルミンによるアヴェマリア。これに乗って、高原伸子が淡々と踊る。これが実に見事。ゆっくりと「ため」をもちながら、柔らかい動きだが、体がしっかり伸びていて、動きにも個性がある。バレエテクニックを持ちながら、ちょっと違うテイストを交えながらのソロ。そうか、彼女も元Noismのメンバーだった。

山田勇気
 舞台の奥に花束1つ。中央を横切る白いライン。下手手前にはマイクスタンド。曲とともに、舞台手前で横になり体を丸くした素晴らしいイメージを作って、高原のソロが終わる。すると白いラインが下手から引っ張られて、結ばれた花束が上手から登場する。なるほど、ラインは白い紐だったのだ。
高原伸子
 高原は上手手前で両足をホリゾントに向けて大股開きで横たわっている。すると下手奥にいた山田が花束を彼女の上に置き、それから踊り出す。曲は男性ボーカルによるボブ・ディラン『天国の扉』のカバー。結構ベタな曲選びだが、白いシャツとパンツ姿の山田のソロも見応えがある。大きいゆっくりとした動き。それが突然、手前に体を投げ出して倒れる。白井剛のような激しい倒れ方ではないのだが、ふうっと体が飛ぶ姿が実に美しい。2度目は受身をするような飛び方だったが、1度目は見たことのない倒れ込みに惹きつけられた。
 この場面にも、おそらく語り手が変わった外国語の声が重なっている。そうか、これはアイヌのフチ(おばあさん)が物語を語っている声だ。プロフィールを見ると、山田は北海道出身。よく見ると、下手手前のマイクの前にぶら下がる小さいレコーダーの音をマイクが拾っているのだ。なぜわざわざそんなことをするのかと思う。そして、ソロが終わると暗転し、山田が高原を軽くリフトするポーズ。これも美しい。やがて2人のデュオが展開する。音楽は少し情緒的だがテクニックを誇示せずにしかし味のあるデュオ。するとマイクが切れて、レコーダーからの直接の声。なるほど、この効果を狙ったためだ。
 花束の意味と効果はいま一つ。「Innocence」(無垢)な花嫁とすると、少々ベタにすぎる。むしろ、いっそう、花びらを撒き散らすなどしてほしかったが、シンプルな舞台作りにアクセントがあったともいえる。後でプロフィールを見ると、高原も山田と同時期に4年間Noismにいたようだ。お互いにやりたいことを完璧に理解し合っていることと、ベースとトーンが共通していたため、この2人のダンスは見応えがあった。
キヅキ
演出・振付・衣装/大手可奈、小尻健太
音楽/佐脇由佳里
(ヴァイオリン:マンディ・小葉子、
ギター:ロベルト・ガレトン)
イリ・ボコルニー&小尻健太
 最後の上演作品は、大手可奈と小尻健太の振付による『キヅキ』。大手可奈は、15歳でフランスに渡りリヨン国立バレエ学校に学ぶ。プレルジョカージョ、ナハリンなどの作品を踊り、スイスを中心に活動している。小尻健太はローザンヌでスカラーシップ賞を取った。そのときの映像はNHKで覚えている。そして、モンテカルロバレエ団からイリ・キリヤンのネザーランドシアター(NDT1、2)で活躍し、現在、オランダを拠点に活動している。
湯浅永麻
 暗い舞台の上手手前に男が2人背中合わせに椅子に座っている。四角い照明に区切られた空間で、観客席側を向く男は黒い風船をもち口元に持ち上げる。下手奥では暗めの楕円形の照明の中で女性が1人踊っている。このコントラストは非常に美しい舞台構成だ。
音はヴァイオリンなどを使った現代曲。すると、背中合わせの裏側の男がすっと立って、彼女と踊りだす。大手可奈とチェコ生まれのイリ・ポコルニーによるデュオだ。黒い風船が突然、「パン」と弾けると情景が変わるところも印象的。小尻はもう一つの透明な風船を持つ。イリも座って黒い風船を膨らます。やがて2人は消えて下手は暗くなり、座っていた小尻健太に後ろから女の手と姿が繰り返し寄ってきては消える。暗い光のなかで繰り返されるこの部分は、とても魅力的だ。次第に女、湯浅永麻は前に出てきて、座ったままの小尻に絡む。やがて絡んで2人も踊っていく。この2つのデュオでは小尻のダンスに特に個性を感じた。
 この3つの作品は、いずれも海外で活躍している若手ダンサー、振付家たちによる意欲作だ。児玉作品は冒頭のハンディライトの部分、山田作品は2人のデュオ、大手・小尻作品は特に上手手前の椅子の場面と下手の対照に個性があった。そして動きという点では、Noism出身のデュオに、より個性を感じた。日本のコンテンポラリーダンスが衰退しているという人もいる。また、欧州のコンテンポラリーダンスは、映像や言葉の活用など、日本が十年前からやっていたことを追っているようにも見える。
そのなかで、80年代から特に先鋭的で僕たちを非常に魅了したキリヤン、フォーサイスなどのダンスのテイスト、彼らが持っていた緊張感のある舞台を作ろうという若いダンサーたち。このテクニックも十分にある優れたダンサーたちの意欲と挑戦に、今後とも大きな期待を抱いている。トライアル的なプロジェクトに終わらずに、これを発展させて、できれば、小さくても一つのムーブメントを起こすという意気込みで、続けてほしい。応援したい。

2010.7.24 ソワレ所見

舞踊批評家 しが のぶお

小尻健太&大手可奈
STAFF

テクニカル・ディレクター/堀尾由紀
舞台監督/平安山美香、池田正宜
照明/辻井太郎
音響/中村 基
制作/東京バレエワークス