DuendeII 夕顔 / サロメ

2007.6.21〜27 博品館劇場


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DuendeII

夕顔 As if in a dream

山野博大の電脳バレエ横丁徘徊

 川井郁子の「Duende ll」

 ヴァイオリンは、聞くものと思っていたら、見るものでもあることを知った。美人ヴァイオリニスト川井郁子さんは、自分からヴァイオリン中心のステージを創って見せてしまおうというところまでやっている。ヴァイオリンは、人間の感情の流れにぴたりと沿ってくるところのある楽器なので、そういうことが可能なのだ。そして
「Duende」シリーズをスタートさせたのが2005年だった。今回はその2回目で、「夕顔」と「サロメ」の2本を上田遥さんの演出・振付により上演した。

光の君:西島千博
 「夕顔」はご承知の通り「源氏物語」の第4話だ。もちろん川井さんがヴァイオリンを弾きながら夕顔を演ずる。そのお相手をする光源氏は西島千博さん。その間に割って入ろうというのが六条御息所の古賀豊さんで、生霊となって夕顔に襲いかかる。ヴァイオリン奏者というのは、片時も楽器を手放すことができないので、物語の中のひとつの役を演ずる場合には、それがどうしても大きな障害になる。それをできるだけ気にならないようにお客様に見せるのが振付者の腕の見せどころというわけだ。
夕顔:川井郁子
西島千博& 川井郁子
西島千博/六条御息所:古賀豊 /川井郁子
 しかし、川井さんがヴァイオリンを持って出てくることに、またその相手の西島さんがそれにどう応対しようと、違和感を持つような人はこの「Duende ll」の切符を買わないわけで、もともとそんなことを問題にする人はこの会場の博品館劇場にはひとりもいないのである。
サロメ Kiss to a red lip
カナーン:西島千博
 「サロメ」はイギリスの作家オスカー・ワイルドが書いた戯曲で、オーブリー・ビアズリーの挿絵で有名になった。サロメの美しさに心を奪われた王のヘロデ(上田遥さんが演じた)が獄中のヨカナーン(西島千博さん)の首をサロメに与えたという「マタイ伝」14章の物語がベースになっている。すでにいろいろな形での舞台化がなされているが、ヴァイオリンを弾くサロメというのはこれが最初ではないだろうか。
サロメ:川井郁子
川井郁子&西島千博
 サロメがヨカナーンの首を欲しがったのは、ヨカナーンに無視されて王女の誇りを傷つけられたから、という伏線がある。そのために囚われて裸体のヨカナーンにサロメが積極的にいろいろと働きかけるシーンが前段にある。中でも、サロメがヨカナーンの首に両腕を回した状態でヴァイオリンを弾くところは最高の見せ場だ。
 この2本の作品には、上田はる美さん、古賀豊さん、横洲良平さんの3人がいろんな役で登場して、ストーリーの展開にさまざまな形で関わり、合計6人で大作2本を見せてしまったことになる。このあたりは、やはり全体をたくみにコントロールしてお客様に理解しやすいように、手っ取り早くことを運んだ演出・振付者の力であり、照明、舞台美術、衣裳、音響などとのみごとな連携のたまものだったと思う。

2007年6月博品館劇場所見

やまの・はくだい=舞踊評論家

ヘロデ王:上田遙&上田はる美