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INOUE BALLET 「SWAN LAKE」
そして今回の舞台で伏した白鳥たちの姿は、これまでに見た『白鳥の湖』のなかで、そのときの情景に最も近いものだった。特に白くスモークのたゆたう場面は、驚くほど幻想的で、冬の北海道のそれに似通っていた。振付・演出の力もあるだろうが、のみならずダンサーたちが高いレベルで白鳥に成り切っていたからだと思う。それを牽引していたのは、「二羽の白鳥」の鶴見未穂子、小高絵美子だった。また、第一幕では、西川知佳子、田中りな、江本択のパ・ド・トロワが印象的だった。
そして、純潔と悪という二項対立の結果、純潔が勝利するようにも見えるが、それは自殺、自己の消滅を伴うものであり、単純な勝利ではまったくない。むしろ男女、善悪という二項対立的思想ではなく、男のなかに女、女のなかに男を見て、純粋さに悪を、悪に純粋を見るような両義性と、白鳥と黒鳥をプリマが1人で演じる両義性は重なっているのだ。
舞踊批評家 しが のぶお