札幌舞踊会 創立60周年「バレエガラ公演」

2009.9.23 北海道厚生年金会館 大ホール

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SAPPRO BUYOUKAI
MEMORIAL 60TH BALLET GALA

オープニング
振付/坂井靱彦
音楽/J. シュトラウス

吉豊かな実績の上に、将来を見据える60周年記念ガラ

うらわまこと

 北海道、札幌舞踊会の創立60周年記念ガラ公演。東京では松山バレエ団、谷桃子バレエ団などが創立60周年を迎えています。松山樹子さん、谷桃子さんなどは戦争中からバレエの訓練を受け、戦後の大バレエ団の経験を生かして独立し、自分の団体を設立したのに対して、札幌舞踊会は千田モトさんがまったくの独学でスタジオを開設、そして60年を経過したのです。
 その間、お嬢さんの千田雅子が引き継ぎながら、多くの優れたダンサーを産みだし、優れた作品を作り、そして世界的な振付者をいち早く起用してきたのです。これらの名前を具体的に挙げればきりがありませんが、例えば、若手でも現在Kバレエカンパニーのソリスト西野隼人、大阪バレエカンパニーのプリンシパル安積瑠璃子がここの出身です。千田母娘を中心とする多くの受賞もあり、首都圏、京阪神、名古屋以外でこれだけ着実にしかもレベルの高い活動を続けているバレエ団は他にありません。
「Evening Falls」
振付/堀川美和
音楽/Enya
 しかもここの特徴は、古典をしっかり上演するとともに、現代的な作品にも大変に力をいれていること。モト、雅子、そして坂本登喜彦も素晴らしい創作を発表していますし、ゲスト振付者として島崎徹、金森穣などを早い機会にとりあげているのです。
藤岡綾子
「TOY'S BOX tune」
振付/TAKUICHIRO
音楽/Tak's mix
奥山健恵、山本佳奈、飯田朝世、高橋茉奈、内田朱音、常田萌絵
Tracks(Miya, Masayuki, BUNTA, NAOTO)
 さて、今回の記念ガラ公演ですが、まさにこの歴史を反映しながら、一方でバレエ団60歳還暦の新出発を示すものとなっていました。

 オープニングは、これも前からかかわりをもっているベジャールなどと踊っていた 坂井靱彦の演出で、元気な幼児たちからプリンシパルまでが登場、楽しさと豪華さでまず客席を引きつけました。
 そして第2部のガラコンサートが、このバレエ団の性格を如実に表したもの。まず堀川美和振付の「Evening Falls」で、ここ出身の成功者の一人、香港バレエ団の主役をつとめた藤岡綾子が成熟した表現をみせました。

「La Lune noire くろい月」
振付/ブルノ・アミラストル
音楽/H.I.F.von ビーバー
監修/千田雅子
横岡 諒&吉田尚美
 次は雅子の子息でヒップホップ界で活躍しているTAKUICHIROの「TOY'S BOX tune」。映像を駆使しておもちゃに扮したダンサーとの自由奔放な組み合わせ。映像と舞台のシンクロがもう少しあるととても面白いものになったでしょう。

 わが国のローザンヌコンクールの先駆者、吉田尚美が横岡諒の黒子的な助演のもとに、深い暗黒の世界をみせた、ブルノ・アミラストル(雅子監修)の「La Lune noire くろい月」。彼女もここのOG

吉田尚美
広田レオナ版 白鳥の湖 第5幕
「王子様のお片付け」
振付/広田レオナ
音楽/P.I.チャイコフスキー
広田レオナ
 さらにここでキャリアをスタート、現在女優、映画監督などで人気をえている広田レオナが、みずから猛母に扮して、東京で単身生活を行っている息子(伊藤啓)の部屋を訪れ、息子をパニックに陥れる話を、「白鳥の湖」の音楽でその後日談として取り上げるという奇想天外な作品「王子様のお片付け」。ここでも映像が重要な役を果たしています。
伊藤 啓
「Cello Sonata」
振付/ウヴェ・ショルツ
音楽/S.ラフマニノフ
チェロ/石川祐支 ピアノ/杉野順子
 さらにぐっと変わってウヴェ・ショルツの作品を継承している横関雄一郎が、「Cello Sonata」をここのプリンシパル林香織と、チェロ、ピアノを舞台にあげた演奏で現代的な感覚のクラシックをしっかりと踊りました。
横関雄一郎&林 香織
「Over a long course of time」
振付/梶谷拓郎
音楽/Filastine ほか
梶原千佳、川村結愛、神島百合香、松野紗季、田中 綾、吉成 翼
 コンテンポラリーは、ここで学び、ドイツなど海外で研修、各地で活動している梶谷拓郎が、6人の女性を背景に、幕や吊りなどの舞台機構を活用して人生の思いの一部を抽出表現した「Over a long course of time」。美術などやや独り善がりの部分がありますが、彼の動きは表現力十分。
「ロミオとジュリエット」
振付/坂本登喜彦
音楽/S.プロコフィエフ
梶谷拓郎
 そして最後は、出世頭で、東京で活躍しながら、舞踊会所属を貫いている坂本登喜彦が、パートナーの高部尚子と踊った自作の「ロミオとジュリエット」(バルコニーの場)。この特徴は、ジュリエットの心の動きをまず見せる部分、そしてロミオのマントを彼女の恥じらいの、そして最後に愛の絆のシンボルとして利用するアイディアが興味を惹きます。

 この部では意欲がやや先行する作品もありましたが、発想の自由さ、多様性、積極性はまさに札幌舞踊会ならではのものといえます。

坂本登喜彦&高部尚子