東京シティ・バレエ団「ロミオとジュリエット」

2012.3.30 新国立劇場中劇場

2of 2
Tokyo City Ballet

Romeo and Juliet

ロミオ:黄凱&ジュリエット:橘るみ
 第二幕は大きな見せ場が連続する。ロレンス修道士(金井利久)による策に沿ってジュリエットが毒を飲んで仮死の状態になるのだが、それをみたロミオは女が死んだと思い毒をあおって死に、目覚めたヒロインもまた死を選ぶという有名なストーリー展開だ。この場面では恋人が死んだと考え死を選ぶ黄、死んだ男を追うように苦悶の果てに死ぬ橘、それぞれが見事な演技を見せた。やがて寄り添うように眠る二人を包む巨大な布がドラマティックに広がり余韻を感じさせながら物語を空間へと昇華していくのであった。
乳母:加藤浩子
黄凱
 震災後のすさんだ世相の中で、ピュアな純愛物語は心を打つものがあった。今回は多くの舞台で人気を集める黄凱が非常に好演をみせていた。橘るみはストーリーのある流れのはっきりとした作品を得意とするがこの作品でも良演をみせていた。橘は映画からエンターテイメントまで幅の広い活動で見せているが、一連の活動が豊かな経験を与えているようで、今回のステージでもその能力は充分に発揮されていた。これからの飛躍に期待がかかる。衣装の小栗菜代子は作品全体を通じて優れた仕事をしていた。
ロレンス修道士:金井利久
マキューシオ:チョ・ミンヨン&ティボルト:キム・ボヨン
 シェイクスピアは演劇のみならず映画や様々な芸術ジャンルで題材になることが多い劇作家だ。産業革命を経て英国が飛躍的に伸びていた時代に本作を始めとする彼の作品は書かれた。歴史や文化、国の枠組みを超えて作品が上演されてきた才能でもあり、この作品は演劇でも明治以前から入ってきていたという異説(四代目鶴屋南北、文化7年(1810年)、「心謎解色絲(こころのなぞをとくいろいと)」、市村座、文化7年(1810年))があるほど近現代を通じて日本でも大切にされてきた。グローバル化の現代は諸文化が混じる時代であり、英米文化の位置も文化の潮流の中でその位相を変えようとしている。
ベンヴォーリオ:春野雅彦/ロミオ:黄凱
マキューシオ:チョ・ミンヨン
戦後の大家たちは本作の現代版であるロビンスの「ウェストサイド・ストーリー」やアメリカを中心とする欧米文化の流入を傍目にそれぞれにシェイクスピアをバレエを翻案してみせた。中嶋によるこの版は日本が経済的に豊かだった時代の感覚を色濃く残しているが、日本人のものとしてこの名作を舞台トータルな視覚芸術にし、自身の振付言語で説得力のある表現にまとめてみせた事が優れている。
黄凱&ティボルト:キム・ボヨン
  現代日本の演劇やオペラで上演されるこの作品と比べてみても、この作品はバレエならではの舞踊劇の醍醐味を充分に持っている。国際的に通用するような表現の言語や様式をさらに鋭く練り上げていくことがこれからの課題だ。不況の中でも豊かだった失われた20年と呼ばれた日本が3.11によって大きな時代の転換を迎えているとするならば、10年代という時代の中で新しいバレエやバレエ文化を構想する時期にある。日本を媒介に、日本が包含している蓄積を考えながら世界へどのようにつながっていくかが問われる時代だ。バレエ団が新世代の感覚と共にさらに飛躍をしていくのが楽しみだ。

新国立劇場 中劇場 2012年3月30日所見

舞踊批評家:吉田悠樹彦

黄凱&橘るみ
青田しげる/安達悦子/橘るみ
芸術監督:安達悦子
構成・演出:中島伸欣
振付:中島伸欣 石井清子 
ミストレス:吉沢真知子

編曲・指揮:福田一雄
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
美術:江頭良年
照明:足立恒
衣裳:小栗菜代子
舞台監督:橋本洋 淺田光久
主催:一般財団法人東京シティ・バレエ団