CDA Dance Performance
Dance me crazy,Dance you crazy


2010.8.12&13 ラゾーナ川崎プラザソル

1of 1
Company Dream Art
「HOTARU」
「Greatful Days」



「HOTARU」


吉田悠樹彦の
Driving into Eternity

 東京で沖縄のダンサーたちが踊るという企画が行われた。演出・振付を手がけたのは東京シティ・バレエ団プリンシパルの小林洋壱だ。
堀内麻衣&小林洋壱
 「HOTARU」は長野出身の小林の原風景を彷彿とさせるような世界だ。長野はバレエや現代舞踊に足跡を残した新村栄一といった優れた舞踊家を輩出している。ファンタスティックな光の渦から手にライトをもったホタルたち(伊波千登世・上原なつき・下地麻衣子・堀内麻衣・松川夏子)が現れ、ゆっくりと踊っていく。踊り手たちの衣装は都会的で失われた自然、都会人の原風景をモチーフとしている。小林の初期の代表作の一つだ。沖縄のダンサーたちという素材を用いながらせつない情景展開の中に朗らかな踊りの表情を加えアレンジしてみせた。
音楽の演奏が続く。チェロ(岡部恵理)とキーボード(佐々木絵里)が「SONG OF THE BIRD」(カタロニア民謡)、「Four Your Eyes Only ?Live and Let Die」(Paul & Linda McCartny)、そして「Oriental Rose」(N.Rimsky-Korsakov)、「Spanish Serenade」(Georg Bizet)を奏でていく。心持ち夏の空気にあっているようなナンバーたちだ。
キーボード:佐々木絵理&チェロ:岡部恵理

「Greatful Days」

 新作の「Grateful Days」は、南国の風景に通じるような軽快な若者の世界を描いた5曲からなるバレエだ。『Tanguedia III』が始まると舞台いっぱいに椅子が並べられ、乙女たちが明るく踊っていく。やがて主人公の小林が現れると女とデュエットを描く。やがて中央に男の上着がかけられた椅子が登場し『Libertango』がスタート。男がシャープに身を走らせていく。『淡き光に』になると女が白い一輪の花と舞う。チャーミングな南国風のダンスが目の前に広がる。女は手に花を客に手渡す。やがて赤いドレスの女が現れ、小林とデュエットを描く。『奥様お手をどうぞ』の曲名が象徴するようなコミカルに男女の世界が展開。『La Cumparista』でダンサーたち6人全員が踊り終演した。
松川夏子/伊波千登世/上原なつき/堀内麻衣/下地麻衣子
上原なつき、下地麻衣子
伊波千登世
小林洋壱&松川夏子
 「Grateful Days」はポップカルチャーが盛んであり文化が混合する沖縄の風土を小林なりに盛り込んだ明るい作品となった。この地の風土は伝統芸能から現代文化まで多岐にわたる多様性をもっている。現地でダンサー達を育てながら、粘り強く創作活動を重ねていく上では取り組みがいがある素地があるといえよう。若いダンサーたちの身体性を引き出しながら、ポピュラーにまとめてみせたテイストには、多くのアイドルを輩出しポップダンスが盛んな土地でもある沖縄ならではのバレエを模索しようとしている主宰の松川夏子や小林の苦心もみてとることができる。
 意外に聞こえるかもしれないが沖縄にはバレエ団がないという。近年、バレエ公演が行われたり、今年からコンクールが行われるようになってきたが、日本国内からも国外からもバレエ団はほぼ来ないという。10年以上前にスターダンサーズ・バレエ団が来たのを子どもの頃に覚えている程度だと松川は語る。松川夏子は沖縄でバレエを学びはじめ、96年に上京し国内外で活動をしてきた。その一方で沖縄の病院や離島で公演を行ってきた。沖縄でバレエを身近なものにし、その活動を通じてこの地にバレエを浸透させたいという想いが背景にある。この公演で上演された作品の解りやすさや親しみやすさは一連の現地での活動を経て形成されてきたものといえよう。
 沖縄というと、近くに台北や上海といったアジア都市もあることから大きな経済発展も期待されている地域だ。古くから文化交易の地でもある。芸能は盛んで豊かな古典芸能が存在する。彼らの活動が大きく実をつける日が楽しみだ。一歩一歩の歩みが反響を呼び、沖縄のバレエ、バレエ文化が芽生え広く社会へ認知されていくような日が来ることを私は楽しみにしている。

8月13日 ソワレ ラゾーナ川崎プラザソル所見

舞踊批評家 よしだ ゆきひこ

STAFF

演出/振付:小林洋壱

舞台監督:佐伯美佳、小山田由貴
照明:小平典夫
音響:富山正明

制作:山川菜々